19世紀から20世紀へ


 ヴェルディによって頂点を極めたイタリア・オペラは、次の道として「ヴェリズモ(現実主義)」への道をたどる。マスカーニの『カヴァレリア・ルスティカーナ』(1890)によって産声をあげたこの激しく生々しい潮流は、あっという間にイタリアを席巻して行く。レオンカヴァッロの『道化師』(1892)、チレアの『アルルの女』(1896)や『アドリアーナ・ルクヴルール』(1902)、ジョルダーノの『アンドレア・シェニエ』(1896)や『フェドーラ』(1898)は、この流派の代表的な作品である。彼らを遥かに凌駕する才能でポスト・ヴェルディの地位に着いたのは、プッチーニである。『マノン・レスコー』(1893)から、絶筆となった未完の『トゥーランドット』(1926)まで、彼の作品は、時にヴェリズモ風に、時には自然主義的に趣きを変化させつつ、人情の機敏に触れる味わいを生み出していった。中でも『ラ・ボエーム』(1896)、『トスカ』(1900)、『蝶々夫人』(1904)は、プッチーニの代名詞として、ヴェルディの作品に劣らぬ人気を獲得している。ヴェリズモの第2世代にあたる人々の中でも、ザンドナイ、アルファーノ、モンテメッツィは忘れてはならない人物である。彼ら以後、イタリア・オペラの創作は徐々に衰退して行く。ヴォルフ=フェラーリや戦後のメノッティ以外の名は、あまり耳にすることがない。

 フランスのこの時代の重要な作曲家は、何よりマスネとドビュッシーであろう。マスネがフランス的情緒のロマン性と、ワーグナーからの影響を融合させたとすれば、ドビュッシーは、『ペレアスとメリザンド』(1902)の印象主義的手法によって、20世紀のオペラの道を拓いたと言えよう。ラヴェルも『子供と魔法』(1952)や『スペインの時』(1911)といった名作を残しているし、デュカスの『アリアーヌと青ひげ』(1907)も美しい。より20世紀的作品としては、オネゲルの『火刑台の上のジャンヌ・ダルク』(1938)やプーランクの『ティレシアスの乳房』(1947)、『カルメル派修道女の対話』(1957)等々も重要である。近年では巨匠メシアンの『アッシジの聖フランチェスコ』(1983)が注目を集めた。

 ドイツでは、ポスト・ワーグナーとしてR・シュトラウスが最も重要な存在である。『サロメ』(1905)、『エレクトラ』(1909)の劇性、『ばらの騎士』(1911)や『アラベラ』(1933)の優美さ、『影なき女』(1919)の幻想性、『ナクソス島のアリアドネ』(1911)のミニマムな精緻さは、いずれも素晴らしい。プフィッツナー、プゾーニ、ツェムリンスキーといった人々の作品も美しいし、新ウィーン楽派のシェーンベルク、ベルクも重要である。特に後者の『ヴォツェック』(1925)と『ルル』(1937/2幕版)は大切な作品である。ヒンデミット、オルフ、コルンゴルトらの作品は、今後、さらに上演の機会が増えるだろう。ドイツでは、現在もライマンやリームをはじめ、多くの作曲家が、オペラ創作を続けている。