この作品について
原作:カルロ・ゴッツィの寓話劇 『トゥーランドット』
台本:ジュゼッペ・アダミ、レナート・シモーニ
初演:1926年4月25日 ミラノ・スカラ座
プッチーニの最後のオペラ。最後まで作曲する前にプッチーニが急死したため、弟子のフランコ・アルファーノが補筆、完成させた。トゥーランドット初演の日、指揮をしていたトスカニーニは、プッチーニが絶筆した場所で演奏を止め、観客に向かって「ここまで書いてプッチーニは亡くなりました。死は芸術よりも強かったのです。」と言い黙祷を捧げた、という有名なエピソードがある。最後まで初演されたのは次の日のことだった。
プッチーニ特有の異国情緒や理想の女性キャラは今回も存在する。同時にこの作品は、合唱に大勢の人数を用いたり、会場や演出次第では一大スペクタクルにもなるので、プッチーニの作品の中では独特とも言えるオペラ。
何が不満って、このオペラにメゾソプラノの役がいないことです。あ、そういう問題じゃないって?
登場人物
- トゥーランドット/ドラマティックソプラノ
中国の皇女にして絶世の美女。祖先のロウリン姫が異国の男に惨殺された復讐をするため、求婚者に3つの難題を出し、解けなければ殺してしまう。異様に高い音域が人間離れしていることを示す。主人公なのに、歌声を聞かせるのは第二幕から、しかもいきなり大きなアリアを歌う、という変わった登場をする。それだけに、存在感のある声や見栄え、雰囲気を持っていなくてはならない。 - カラフ/テノール(ドラマティコ、又はリリコ・スピント)
元ダッタンの王子だが、祖国を追われ、身分を隠している。愛のためには自分の命もなんのその、という情熱溢れる王子。(ただの熱血バカ…?!)愛でトゥーランドットの氷の心を溶かす。このオペラの名フレーズ、「謎は3つ、死はひとつ!」「謎は3つ、ひとつは命!」と、トゥーランドットとカラフが声を揃えて歌う所で、どっちが3点Cを相手より長く伸ばしていられるか、歌手同士、密かに対決しているらしい?!相当強靭な声が要求される役でもある。 - リュー/ソプラノ
元ダッタンの宮廷に仕えていた若い女奴隷。王子に優しい微笑みを送られたことに感動し、彼と父王を危機から救うために一身を捧げる。トゥーランドットとは対照的なリリコ・ソプラノによって歌われる。控え目で優しいが、芯に情熱的でひたむきなものを持っている女性。プッチーニ好みのヒロインで、この手の女性を描かせたら、プッチーニの右に出る作曲家はまずいない。美しく流麗なメロディーも、繊細なオーケストラの伴奏も、すべてリューのアリアに注がれている。リューの亡骸が去っていくピアニッシモのピッコロとともに、プッチーニの命も静かに去っていったのだろう。トゥーランドットがフォルテシモの強さなら、リューはピアニッシモの強さと言える。 - ティムール/バス(バッソ・カンタンテ)
元ダッタンの王。敗戦によって王座と故国を追われ、流浪の末に北京にたどり着いた。ダッタンと言えば、韃靼そb…あ、ごめんなさい(´Д`;) - 皇帝アルトゥム/テノーレ・ブッフォ
中国の皇帝で、トゥーランドットの父。やせこけた老人で、蚊の泣くようなケチくさい声で歌う必要があるため、テノーレ・ブッフォが受け持つのが通例。本当に老人のテノールが歌うこともある。そのひょろひょろ感がたまらないとかなんとか。皇帝らしい威厳が必要。 - ピン/バリトン
宰相。 - パン/テノール
大膳職。 - ポン/テノール
料理頭。
この3人は個々がどうの、というより3人一組でコミカルな動きや歌を歌う。テーマが重いこのオペラが重くなりすぎないよう中和するという役目も立派に果たしている。なにげに、この3人が昔を懐かしんで歌う、2幕の最初の曲がのどかで好きです。 - 役人(布告官)/バリトン
- ペルシャの王子/バリトン
ただ死んでいく役。いかにも脇役的。
あらすじ
第一幕
強烈な和音で音楽が始まる。舞台は伝説の時代の北京。広場は群衆で埋め尽くされている。その中、役人が、王女トゥーランドットは、王家の血を引く者の中から、姫の課した3つの謎を解いた者を夫に迎えるが、もしもその謎に答えることが出来ない場合、直ちに斬首の刑に処せられること、そしてすでに立候補していたペルシャの王子は、今夜、月の出とともに首を斬られることになった、と布告する。群衆はいっせいに騒ぎ出し、広場は大混乱に陥る。その中、戦いに敗れて流浪していたダッタンの元王子、カラフは、生き別れになっていた父、ティムールに再会する。ティムールにつき従っていたのは、ひそかにカラフを恋する女奴隷リューだった。だが再会の喜びも束の間、死刑執行を告げる不気味な銅鑼が鳴り響き、首切り役人とその手下が、群衆の歓呼に迎えられて登場する。そして若きペルシャの王子を先頭にした行列が登場、まるで夢見るような様子で静かに死刑台にひかれていく王子の高貴な姿を見たとたん、これまで残忍な熱狂に酔っていた群衆は、一変して王子への同情と憐れみの気持ちにおそわれる。彼らが王子の助命をトゥーランドットに嘆願しようとしたその時、トゥーランドットが美しい姿をあらわすが、民衆の必死の嘆願を嘲るような身振りをしただけで奥に戻っていく。再び死刑者の行列は首斬台の方へ動き出す。この間、ただトゥーランドットを見ていたカラフは、姫の美しさに心奪われてしまう。ティムールやリュー、3人の大臣(ピン、ポン、パン)が必死に止める(お聞きください、ご主人様:Signore,ascolta!)のも聞かず、姫の謎に挑戦するという合図の銅鑼を3度、叩く。
第二幕
姫の住む宮殿の一室。ピン、ポン、パンは「婚礼の支度を」「葬式の支度を」と歌い、今や人の死を見ることが日常の職務になってしまったことを嘆き、遠い故郷に思いを馳せる。そして、姫の謎を解き、姫と結婚する者が現れればどんなに平和な世の中になるだろう、と願う。しかし、束の間の夢は謎解きの開始を告げるラッパの音によって現実に引き戻される。カラフ、トゥーランドット、皇帝アルトゥムがそれぞれ登場し、トゥーランドットはこの宮殿で:In questa reggiaで祖先の皇女が外国の男たちによって悲惨な最期を遂げたこと、そしてその仇討ちのため、自分はこのように残酷な方法で夫を選ぶのだ、と声高に宣言する。(ここでトゥーランドット「謎は3つ、死はひとつ!」カラフ「謎は3つ、ひとつは命!」が入るのでお聞き逃しなく!!)そしていよいよ謎の出題に入る。
第1の謎:
闇の夜に虹色に輝く幻が舞う。黒い無数の人々の上に高く昇り、翼を広げる。人々はそれを呼び、それを求める。しかし、あかつきとともに幻は消える。心の中によみがえるために。そして夜毎に生まれ、夜明けとともに死んでいく。(答:希望)
第2の謎:
炎のようにはね上がるが炎ではない。時には熱にうかされ、激しく燃えるような激情の熱となる。無気力はそれを沈滞に変えてしまう。お前が敗れるか死ねば冷たくなる。お前が征服を夢見るならば燃え上がる。それには、お前が心をときめかし、耳を傾ける声があり、夕暮れの生き生きとした輝きがある。(答:血)
第3の謎:
お前に火を与える氷で、お前の火からより冷たいものを取り出す、白くて黒いものだ。もしお前を自由にしておきたければお前をいっそう下僕とする。もしお前を下僕として受け入れるならば、お前を王とする。(答:トゥーランドット)
(いくつ分かりましたか?ちなみに私はひとつも分かりませんでした…っていうかこんなん分かるか!トゥーランドットとカラフって実は相性いいんじゃない?きっと以心伝心の夫婦になったことでしょう。)カラフは全て答え、群衆は勝利者を一斉に称える。トゥーランドットは王女たる自分が、素性も分からぬ他国者の妻になんてなりたくない、とダダをこねだし、皇帝に訴えるが、皇帝は頑として受け入れない。そこでカラフは夜明けまでに私の名が分かったら結婚しないどころか、命まで差し上げよう、とトゥーランドットに謎を出した。ここから長い長い夜が始まるのである。
第三幕
夜中。役人が夜明けまでに見知らぬ王子の名前を探り出すために、北京の民は誰一人眠ってはならない、という布告を叫んでいる。その言葉を聞いたカラフは静かに誰も寝てはならぬ:Nessun dormaを歌い出す。そこへ父ティムールと女奴隷リューが群衆によって連れてこられた。昼間、一緒にいたところを見た、という人がいたのである。そこへトゥーランドットも登場し、白状しろと迫る。リューは「私だけが名前を存じ上げております」と言い、主人のティムールをかばう。リューは最後のアリア氷のような姫君の心も:Tu che di gel sei cintaで彼の愛に触れれば氷のようなあなた様の心も溶けるでしょう、と歌い、おもむろにそばにいた兵士の剣で自害する。トゥーランドット以外全員がリューの犠牲的な愛に感動し、先ほどまで「名を名乗れ」と怒り狂っていた群衆たちもリューの尊い死を嘆き悲しんだ。リューの遺体は兵士たちによって静かに運ばれていく。(プッチーニが作曲したのはここまで。ここから先はプッチーニの生前のメモや教えを元に、弟子のアルファーノが補筆。)
リューの死を見ても、なおも心を閉ざしているトゥーランドットにカラフはくちづけをする。トゥーランドットは自分の身に何が起こったのか分からず、別の人間になってしまったように呆然としていた。すでに夜は明け始め、遠くから朝の訪れを告げる歌声も聞こえてくる。カラフは勝利だ、と自分の身分、名前を叫ぶ。するとトゥーランドットは「名前が分かったぞ!さあ、謎解きの時間だ!民の前に私と一緒に出るのだ!」と叫ぶ。皇帝の前に出たトゥーランドットは皇帝に「この人の名は…愛です!」と言う。全員の歓喜の大合唱で幕が下りる。