プロローグ
夏が終わった。涙を流した。流れた。 「次こそは、全国までいってくれ。」 次こそは――、哀しい響きが体育館に響き渡った。 綾南高校バスケ部、県大会ベスト4。惜しくも全国ならず…。
第一章
――「こらぁ!!植草ァ、腰落とせ!!何度も言わせるな!!」 田岡監督の罵声が轟く。冬の選抜には、新体制で臨む綾南の体育館は今日も賑やかだ。 「ハイッ!!」 今朝からフットワークの練習がかれこれ1時間程続けられていた。 フットワークなんてのは、走りっぱなしのしんどい物だ。 が、一向に終わる気配はない。 毎年進入部員が入るまでの半年間、田岡茂一のまさに地獄の特訓がある。 今年は特に、冬の選抜に向けての『打倒海南』『打倒湘北』と、並々ならぬメニューが並べられている。 「ふはははは、仙道はPG、吉兆はC、越野・植草でG…、ブツブツ…」 田岡監督の独り言は日増しに重症になっていくようである。
――今日も主将仙道彰、遅刻…。 苦労が絶えないのであろうと察せられる。
仙道も練習に加わり、やっとのことでパス練習に入った部員たちから安堵の声が漏れる。 その様子を端で見守るのは、田岡監督と、 「ノってるで、イケるイケますよ…監督ぅl〜!!って、どないしたんですか?田岡さん」 相田彦一である。 「ん…何だ?(田岡…さん??(微怒))」 「何やて、田岡さんがわてを呼んだんでしょう?」 「ん…、あ、あぁ。お前にはな、2年生のうま〜〜〜〜〜い練習をじ〜〜〜〜っくりみたほうがいいと思ってな。 冷や汗混じりに田岡は応える。…実に怪しいのだが、 「そうでっかぁ?…おぉ〜〜〜〜〜あ、あ、アンビリ――バブルや、仙道さん!!要チェックや〜〜〜!!」 彦一は早くも丸秘ノート&ペンシルでチェックを始めた。 「福田先輩も流石や!!さすがやでぇ!!」 単細胞な奴でよかった―と思いつつ、田岡はおもむろに胸に腕を組んだ。 (ふはははは、こいつはこれでいいのだ(バカ●゛ンのパパ風(笑))――煩いけど…。」
実は、田岡監督には内なる狙いがあった。 『相田彦一』、彼を初めはただの五月蝿い奴だと思っていた。 だが、彼のチェックには光るものがある…、と…。 そう、田岡監督は彼をマネージャーに仕上げようと企んでいるのだ。
―去る、4ヶ月程前、湘北との練習試合の時だった。 彦一は執拗にあの桜木を気にしていたようだが、仙道のプレイを見て呟いた。 「要チェックですわ…。仙道さんのパスは」 「パス…?」これがヒントで仙道のポジションは、攻撃を主とするFWから、 ゲームメイキングの要たるPGへと移されることとなったのだ。 勿論吉兆のことや仙道のパスセンスなど、薄々は気付いていたのだが…、と田岡さんは続いて思う。
――「休憩!!」
「はぁ――やっとだよ…ウプッ」 吐き気を催す人、多数。
――余談だが、汗だくのシャツを絞りながら、部員たちの注目すべきは 「先導の髪形は何故に崩れていないのか!?」だったりする。
「彦一、ポカリとって」 「はいはい、仙道さん。」 田岡が企む前に、既にマネージャー的な彦一…それでいいのか!?
そんなこんなで綾南の練習は今日も続く。
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