令和6年3月

     同人作品(石井いさお 抽)    
     夫婦茶碗互ひに欠けて初笑
山本  宏
     山茶花を昨日掃きゐし人逝きし 赤松由美子
     着ぶくれの待つ行商も着ぶくれて 岩本 立彦
     猪捕獲助つ人走る山中へ 奥井 幸代
     極月の海に釣舟網打てり 藤岡佐代子
     神水を藁に吹付け注連を綯ふ 田畑 寛一
     冬晴の風と出でたるシテの霊 水谷 洋子
     指先で触る無反応厚氷 舘 千恵子
     息長くくぐもる声や後宴能 水野 悦子
     総身の力一打や除夜の鐘 野崎 孝子
     荒縄の囲める舞台伊勢神楽 河野 幸子
     留拍子足音高き寒舞台 新保 笑子
     去年今年波が耕す日本海 水谷 岩夫
     蠟梅の毀れるほどに透きとほる 鈴木 智子
     薄氷を踏んで光の折れる音 塗矢智惠子
     柚子たわわ棘の狭間へ指を入れ 高橋  進
     節電の夜長を荒ぶ風の音 牧  悦子
     初茜地獄網張る沼の面 三輪 洋子
     愛猫を膝にゆるしてずいき剝く 石橋 林石
     手焙やほうじ茶香る老舗茶屋 山本 孝子
     能面の顔となりゆく寒さかな
武田 巨子
     宮相撲勝者の拭ふ敗者の背 梅枝あゆみ
     柴漬の匂ふ店先寒念仏 藤野 智弘
     一閃に一湾総出鰤起し 平野  透
     火の鋼急所を打てる鍛冶始 石井 洋子
     冬晴に光る金箔遺跡掘る 大野 利江
     浮寝せる蓬莱島を拠り所とし 榊原 惇子
     門松の笑ひ竹向き笑ひ合ふ 内田 幸子
                      

 
   会友作品(石井いさお 選)

     崩し字の句碑読むガイド冬うらら 川口 義和
     帰り来て留守電明かり冬の部屋 小林 桂子
     止め石が醸す静寂や敷松葉 
𠮷田 勝博

 

   誌友作品(梅枝あゆみ 選)

     賀状受くこれで最後と小さき文字 市川 敦子
     朱を藍へ色の魔術師寒夕焼 小野 秀子
     木枯や立木大地に力みをり 髙橋 信次