『一大決心』



湘北高等学校 ――柔道部
あたし、 はそこに所属している

なぜならば―・・・
1年前の部活動の見学会のときに
あたしの理想の人がそこにいたからだ
それが、今はもう卒業してしまったが「青田 龍彦」その人である
今までは楽しみだった部活も、今では何だかセツナイ
でも、柔道してれば青田先輩の傍にいるような気がして
それに汗を流すのは気持ちいい
そんな時も青田先輩もこうだったのかな?ってそう想ってしまう

「はぁー・・・」

ふと洩れるため息

「どうしたんだ? ・・・」

「気安く呼ばないでくださいよぉ!!」

青田先輩の後輩達が声をかけてきた
あたしからみたら先輩なんだけど・・・
青田先輩があたしの事を『 』って呼んでたから、
って馴れ馴れしい
青田先輩は特別なんだから

「そんなんだと一生叶わねぇぞ」

そう言って先輩達はからかう
恋だ何だなんて縁の無さそうな先輩達だけど、
それでもあたしの青田先輩への気持ちはばれてしまっている
それなのに、青田先輩は気付いてくれていないなんて・・・
ホッとするけど、でも何だか複雑

・・・青田先輩は、花道君の事しか頭にないんだ
春子ちゃんよりも一番のあたしの恋敵が花道君だ
花道君が柔道のよさに気付いてしまったらと思うと怖くなる
青田先輩と花道君が組む姿なんて死んでも見たくない



部室の窓から覗く天気は、今日も少し曇った寂しい天気だ

「みんな、俺だ!!」

そんな空模様の中、懐かしい青田先輩の声がした―気がした

「主将!!青田先輩が来てくれてますよ!!」

3年の男子の先輩が今の主将に報告している

「違うぞ?俺は永遠の主将だ!!」

青田先輩の自信たっぷりのあの口調が聴こえる

もしかして―
もしかして―――まじまじと、ドアから見える顔を眺めた
前より少し髪は短くなっていた
前より少したくましく見える

――でも、それは紛れもない青田先輩の顔だった

「よお、元気か?」

ああ!!青田先輩!!

―言葉にならない
もどかしい、すごく、もどかしい
はやく喋りたいのに、挨拶だけでもしたいのに――
2年や、3年の先輩達が話しかけていっている

!!」

そんなあたしに気付いてか否か、青田先輩があたしの名前を呼んだ

「あっ、は、・・・はい!!」

声が裏返ったかもしれない
でもそんなの気にならない、とても嬉しかった

「おまえまだ柔道部やってたのか?」

「え?・・・・・はい??」

「いや、おまえまだ柔道続けてたのか?とな・・・」

「み、見ての通りですよぉ!!」

周りから吹き出す笑い声が聴こえる

「体格だけは柔道に向いてるがな。そうか、まだ気付いてなかった
か・・・」

「何がですかぁ〜〜〜?」

「おまえには、柔道は向いてないぞ!!!」

その後散々からかわれてしまった
沢山話は出来たけど・・・嬉しいのか悲しいのか

たしかにあたしは柔道は向いてない
だから、青田先輩直々に誘われながら入部しなかった花道君の事は
いつも羨ましく思っていた
そして、すこし悔しかった
勿論、入部したらもっと嫌だったと思うけれど・・・



青田先輩はあたし達の部活の様子をみていました
今日は大学の部活動はなかったんだそうです
そう、青田先輩は柔道の推薦で大学にいったんです

部活が終了―
今度いつ会えるか解らない
今日・・告白しよう・・・

後片付けもそこそこに、あたしは青田先輩を追いかけた

「先輩!!忘れ物ぉ」

青田先輩は体育館のすぐ傍の植木の辺りにいた

自分でも恥ずかしくなるくらいくさい手段だって思う
急いで書いた文字は乱雑で、破り損ねたメモ帳はすこし粗末だ

「お?」

すこし悪戯っぽく笑って振り返った
動揺する自分を落ち着かせる

「先輩・・・これ!!」

そう言って紙切れをさしだした
思わず俯く 怖くて顔を見れない
後悔に似た感情が後から後から湧き上がってくる

「・・・・・―――ッ」

そっと肩に暖かい腕がかぶさった
そして、ぶっきらぼうに放たれた言葉に、あたしは泣いた

「ありがと」

そんな、普通の・・・でもとっても綺麗な、一言だった
そして優しく、優しく、あたしの震える肩を抱いてくれてた





「ぬ?・・・おまえはジュードー男!!」

そこへ、花道君がやってきた
でももう不安はなかった
青田先輩はあたしのものだ―そういえる自信がある
でも、明日噂になるのは恥ずかしい
あたしは、如何にかして誤魔化そう、そう考えた

――でも


「桜木!!柔道をやれ!!俺のいない今こそ、エースになれる・・・」



(―――青田先輩・・・・・)

花道君を見つけた青田先輩はあたしを放り出し、
柔道部への勧誘を始めたのです
何が何だか解らず、うずくまるあたしに、さっきから
降り出しそうだった雨が、
しずしずとあたしを涙と共にぬらしてゆきました





余談ですが、あたしと青田先輩との噂は
明日もそれ以降も出ませんでしたとさ




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