ファイリング

雨降り、庭が閉じ込める
雨降り、庭を閉じ込める
コンクリートの壁が白い
白い蛍光灯が暗い
窓にはブラインドがかかっている
机に向かって俯いたまま
空調機のモータ音と送風音に閉じ込められた小さな部屋は
古い病院みたいだ

笑い声も呟きも溜息も
雨と空調の音が隔て
そとに漏れることはない

ブラインドのない窓がひとつ
窓際までいって見下ろすと
ほとんど灰色染みた薄緑色の作業服を着た人が歩いている
ゆっくりと
時折こちらを見上げ

向こうの建物の脇には私の自転車が停まっている
ここから帰るための自転車
カギはカバンのなか
ファスナーのついたポケットのなか

ノックされたドアががちゃりと開いて、勢いよく閉まる
そこからなにものも逃がしはしないと圧迫するような 厳しい音を立てて閉まる
とっさに左手を隠した
その動作に意味はない

ほとんどだれも私の左手に気付いていないことを確認しただけ

ほとんどだれも、私以外には

同様に
ほとんどだれも私に気付いていない

また同様に
いつまでもなり続ける空調の音により
この部屋が隔離されていることにも

ほとんどだれも気付いていない

席に戻り
聞こえない溜息をひとつ
左手の黒い模様は自分でつけたボールペンの跡

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