SWEET SWEET SWEET HONEY


「いたっ・・・。」
当麻が頭を抱え込む。その手から本が滑り落ちばさっと音がした。
「どうした?当麻?」
秀が遼と興じていたTVゲームから顔を上げて当麻が今し方までカウチで本(しかも小難しい本)を
読んでいたはずの方向に顔を向ける。
「なした?当麻?」
遼もゲームの手を休めて当麻の方を向く。
何年か前、そう。
彼らが大学生だった頃迄はナスティも含めみんなで共同生活を楽しんでいたこの柳生邸。
今日は久しぶりの定期的なお泊まり会(と称した飲み会^^;)だった。
今回は金曜から泊まり込んで金・土と飲み明かす予定。
彼らが社会に出てもう5年近くたつ。
それぞれに仕事もそれなりにこなせるようにはなっても、上司と後輩の間に立たされることや、
彼らが10年前に必死になって守ったはずのこの世界に疑問を覚え、ストレスもそれなりに抱え、
最悪の時には『いっそあのとき阿羅醐の手に渡してしまえばよかった』とさえ思ってしまうほど
腐敗し始めたこの世の中。
そんな中で心許せる仲間の集まりは彼らの最優先事項となっていた。
そんな中での当麻の食事前の変調。
「当麻ぁ?どうしたのさ?」
本が落ちる音に気づいて伸まで台所から出てくる。
「な、なんでもない・・・つっ・・・・・。」
頭を押さえ些か苦しそうな当麻を見て誰しもが当麻の偏頭痛が始まったのだと気がつく。
「あぁ、当麻。無理しなくて良いから。今日は?薬持ってきてるかい?」
伸が当麻の体を横にさせる。
幸いにも彼はカウチの上にいた。
横たわらせるまでは、楽だった。
「いや・・・。しばらく起きなかったから持ってこなかった。」
「またかい?君って子は・・・。何度も僕や征士に言われてるだろう?油断してるときほど
君の持病は頭をもたげるんだって。ここに征士がいなかったことに感謝するんだね。
いたら君はまた雷落とされてたよ。まったくさ。」
そう言って当麻に部屋で休むことを勧めるが首を縦には振らない。
肝心要の征士は今日は遅番で仕事が終わってからまっすぐこちらに向かうことになっていて
いまだ不在だ。
伸がため息つきながらだだっ子を見下ろすと、
「あ、お前、動けないくらいまできてるだろ?」
遼に言い当てられて、ぷいっと顔を背けてしまう。
まさに、だだっ子。
ついでに言えば口も利けなくなるまで来ているとは更に言えない。
はぁ・・・。
ため息ひとつ。
「ほら。僕に手ぇかけて?上まで運んだげるから。」
そう言って当麻のか細いからだの下に手を差し入れる。
一時は当麻のひょろんと細い躯の所為で身長が高く見えた時期もあったが、やはり一番年下。
(誕生日が・・・。)
征士はもとより伸や遼の方が今は体つきはいい。
秀はあまりひょろんとはしていないがやはり細っこいせいか当麻が一番際だって小柄のようだ。
そんな当麻を抱えるのは何ないこと。
下手に女性のように肉付きがグラマラスでないだけ、軽く運べる。
しかし、それを当麻は嫌々をする。
「なに?この僕じゃ不満だってぇゆうのかい?贅沢な。」
ぷんすかしながら言いたいことは何となく解る。
「じゃあね、上掛けとってきてあげるから、鎮痛剤飲んでおとなしくしてなね?」
当麻の偏頭痛は並大抵の薬じゃ効かない。
市販でも一番きついとされるセデスよりもきついポンタールでないと効かないらしいが、
ないよりはましと、柳生邸常備薬の中から別の鎮痛剤を持ってきて水とともに渡してやる。
それでも体を動かすのすらままならなくなってきてるのか、朦朧としていて飲もうとしない。
ひどいときには意識も失うと征士が言ってたっけ・・・。
「おい〜。伸。こいつ半分意識ないぞ?どうする?」
「当麻?大丈夫か?」
秀と遼もこんなになった当麻に出くわすのは初めてだ。
大概征士が当麻の偏頭痛の予兆を察して頭痛薬を飲ませていたからだ。
「おおよわり、だね。まったくさ。」
伸がため息をついて腰に手を当て当麻を見下ろしてると・・・。
「すまない。遅くなったな?やはり私が最後のようだ・・・な・・・と・・・。どうした?」
当麻を除いた一同の視線が征士に釘付けになったからだ。
持ってきた手土産の日本酒(銘柄は七福神)を床におき怪訝な顔で尋ねる。
「これ。なんとかしてよ。」
伸の不機嫌な一言。
「当麻?どうした。」
そう言って、瞳の光彩が明らかに彼らに向けられる色と違う色で当麻の傍らに立つ。
彼ら一般に対する光彩がパープルだとすると
当麻へのそれは柔らかなラベンダー。
(うげぇええええええ。露骨だね。君って奴もさ。)←伸、心のつぶやき。
「当麻がいつもの偏頭痛らしいんだけど、常備薬持ってきてないらしくって、しかももう結構きてる
みたいなんだ。」
自分は健康なもので偏頭痛の辛さを解ってやれないのが申し訳ないのか遼が眉を顰めて征士に
説明する。
「馬鹿者。だからあれほどいつも持ち歩けと言っているだろう。・・・ほら。丁度持ってるから、
飲んでしばらく寝てろ。」
「あーだめだめ。自分で体動かせなくなってるよ。こいつ。」
秀が片手をぱたぱたさせながら征士に無駄無駄とばかりに言う。
「仕方ない。伸。水持ってきてくれないか?私はこれを上に運ぶ。」
そう言って、ひょいっと当麻の体の下に腕を差し入れてその腕の中に抱える。
さっきは伸にあれほどいやがった当麻も無意識か、征士の首に手を回しておとなしく抱きかかえ
られている。
(おいおいおい〜。そりゃ露骨だってばよ。)←秀、心のつぶやき。
案の定ぴきりと眉を怒らせた伸がいる。
「はいはいはい。じゃあ僕も支度で忙しいんだから、手早くねっ!」
(し〜ん〜。露骨すぎるっ。)←遼、心のつぶやき。
そう言って部屋のドアを開けてやるためにつかつかと征士の前にたって二階にむかう。
「すまぬな。伸。支度ばかりかこれの面倒もかけたようだ。」
とんとんとん・・・・・・。
二階への階段を上りながら当麻を当たり前のように抱きかかえる征士。
「いーえっ。でもね。いい加減当麻も今年は27になるんだから、そろそろ自分の世話は自分でさせ
なよ?まったくさ。いつまでもお子さまなんだから。」
くすくすと笑って、
「そうだな。伸の言うとおりだ。」
(ちいいいーっともそう思ってないくせに!)
心の中で征士に舌を出してやる。
ドアを開けて当麻のベッドのリネンを外してやる。
征士が当麻をそっと横たえるのを確認してから
「じゃあ、ぼかぁ用意があるからしたに行ってるよっ!」
「あぁ、すまない。私も今すぐ降りて手伝う。」
後ろ手に手をひらひらとさせて(期待してますよ)とばかりに背を向ける。
そこで伸に悪戯心むくむく。
(あの状態の当麻にどうやって薬を飲ませるんだろ・・・?・・・ふふ。語学のために拝見させて
いただくよ。伊達君v)
そおっとドアを半開きにしていた隙間から部屋の中をそっと見る。
「当麻・・・。こうなっては苦しいだろう?いつもあれほど視界がちかちかしてきたら薬を飲めと
言っていたろうに・・・。」
ふうとため息をついて上着を脱いでネクタイをゆるめ、当麻に身をかがめる。
(おお?!伊達君、いきなりですか?)
どきどきしてくるのぞき魔、伸。
「全く・・・。ほら・・・、口開けて・・・。」
(おおおおおおおおお〜!!)
興奮と嫉妬がごちゃ混ぜ状態。毛利伸。
「ほら・・・。」
そう言って、当麻の口に指を含ませる征士。
(だ、伊達くううううーーーーーん!!)
当麻の口から指を引き抜いたかと重うとおもむろに口に水を含んで当麻の唇に自分の唇を重ねる。
(あああああああああーーーーーーーー!!)
伸、自分の妄想の世界に浸りっぱなし。
こくん・・・・。当麻がのどを微かに上下させた。
(ごちそうさま。ばかばからしくって見てらんないね・・・。)
我に返ってばかばかしさに気づくあたりさすが合理的な毛利伸。
(さてっと。食欲大魔人が起きてきたときのために張り切って用意しましょうかね。)
そう心でごちつつ、階段を下りていく伸だった。

さて、伸が降りてきた征士とゲームに興じていた遼と秀を上手く使って宴会の支度を整え終わった頃、
「ふぁあああああああ。よく寝た。もう飯できた〜?」
呑気にあくびをしながら頭痛あけのすっきりした表情で降りてきた『食欲大魔人』に伸が些か目を細
めて睨んだのは誰もが仕方ないと思ったことだろう・・・。
それはそれとして宴会自体は大変盛り上がった。
一本気な性格の遼と秀が昔さながらいろんなストレスにぶち当たってもよけることを知らないために
ためているストレスを伸がにっこりと笑いながら聞き役に徹してやって伸の名家故のごちる悩みは
征士が聞いてやり、当麻と言えばまだ大学院生で社会に出てはいないが遼と秀に『いかに合理的
にしかも陰ながら効果的に相手にダメージを与えるか』を講義してやり、征士はと言えば目下の悩
みは恋人羽柴当麻のことだけなので別に愚痴りもしなければ悩んでもいない。
静かに、ただ静かに飲んでるだけであった。(飲んでるんだか、しらふ何だか変わらないのもこの人
らしい。)
常人よりかは肝臓の出来が良いせいか酒に関しては強いはずの彼らだがつぶれるときはつぶれる。
残ったのはいつも通りの征士と伸。
「さて、そろそろお開きにするか。・・・私は当麻を運ぶので伸は秀と遼を頼む。」
「ちょおおおっとまったぁ!征士ぃ。秀と遼はこのとおり。でれんでれんのぐてんぐてん。この二人
を僕一人に押しつけるのはちょおーっと割に合わないよねぇ?当麻に甘すぎる!!てゆより、当麻に
しか君の親切心は発揮されないのかい?」
当麻も偏頭痛さえ起こさなければ本来ぐてんぐてんにならない。
偏頭痛起こしたばかりだからと言って止める伸にまぁまぁと飲むことを許してやったのもやはり当麻
に甘い征士であった。
にっとわらって、
「すまんな?先に当麻を運ばせてくれ。先にこれを運んだら手伝いに降りてくるから。」
ひょいっと肩をすくめて
「はいはいはい。もういいよ。解った。『先に』そのお子さまおいといで。寝かせたら『すぐに!』
降りてきてよね。」
そう言ってしまう、毛利伸27歳独身。
結局解ったことも、学んだことも、
<伊達征士は羽柴当麻に甘くて、しかも悔しいことに羽柴当麻が甘えを見せるのも伊達征士だと
言うこと>
だけでしたとさ。
レモン色の小指の先ほどの細い細い月を仰ぎ見てため息をついてしまう、伸であった。




2000.06.25

追突事故の為に怪我を負った私に『春syun-ou』の平林 桜さんから頂いたお見舞
い小説です。(*^^*)『当麻くんだけに心の広い、征士さんだけにひっそり甘える、
幸せいっぱいな二人のお話』相変わらず、爛れた思考がバレバレなリクエストでし
たが、桜さんのステキ征当小説を拝見でき、沢山の元気を頂きました。
頑張って、身体を治します!(笑)アリガトウございました。