この作品について
原作:シラー 『ドン・カルロス』
台本:メリ&デ・ログリュ
初演:1867年3月11日 パリ・オペラ座
ヴェルディがパリ・オペラ座のために書き下ろした、フィリップ2世統治下のスペイン宮廷を舞台とする重厚長大なグランド・オペラ。
政治取引で相愛の婚約者が義母となった王子ドン・カルロの許されぬ恋を軸に、フランドル独立を巡る政治対立や、王と教会の権力争いなどがからみ、複雑な歴史ドラマが壮絶に展開される。ソプラノ・アルト・バスに高難度で巨大なアリアが用意されている。
結末としては、「ここまでひっぱっといてそれ?!」的なオチで終わるのだが、それがガクッとなるか感動するかは、演奏者次第なのかもしれない。
登場人物
- フィリッポ2世/バス
スペインの王。ヴェルディお得意の「苦悩する父親」として描かれる。 - エリザベッタ/ソプラノ
スペインの王女。カルロを愛していたが、政治的思惑により、フィリッポ王と結婚。 - エーボリ公女/メゾソプラノ
王子を愛していたが、エリザベッタが王子と通じ合っていると勘違いし、王に告発する。しかし、それが勘違いだった上に、王子までもが死の危険にさらされたことから、自らの軽率な判断と行動を悔やむ。(なんか、アムネリスみたいな役柄…) - ドン・カルロ/テノール
フィリッポ2世の息子、スペインの王子。 - ロドリーゴ/バリトン
カルロの親友の侯爵。彼の死によって、仲違いしていた父と息子が初めて心を1つにすることが出来た。
あらすじ
第一幕
スペインの王子カルロは1人、冬の夜の森の中で婚約者エリザベッタへの愛を歌っていると、道に迷ったエリザベッタがお供の者と現われる。カルロがスペインの者と知り、お供の者は輿を呼びに出かける。エリザベッタは、出会ったカルロをお供の者と思い、「私はまだ彼がどんな人か知りませんが、彼は私を愛してくれるでしょうか」と不安を打ち明ける。彼女は故国フランスを離れ、スペインとの和平のために嫁入りするのである。カルロは「これがあなたの婚約者の肖像です」と言って自分の肖像画を渡す。それを見て、エリザベッタは喜ぶ。カルロは「私はあなたを愛して生きることを望んでいます」と打ち明け、2人は結ばれた愛を喜ぶ。同時に、スペインとフランスとの間に和平が結ばれたことを知らせる大砲が鳴り響き、2人の喜びは頂点に達する。
その直後、使者が戻ってきて、エリザベッタに「あなたはフィリッポ王の妃、王妃となられます」と告げる。彼女がフィリッポ王の妃となれば、無事に和平が結ばれる。長年平和を求めてきた群衆の切なる願いを無下に出来ず、エリザベッタはカルロを愛する自分の気持ちを殺して、フィリッポ王の妃となる約束をする。歓喜の歌を歌う群衆を横目に、永遠に慰めが去ったことを知るカルロとエリザベッタ。
第二幕
数ヵ月後のスペイン、サンジュスト修道院。カルロの祖父でもあり、前王でもあるカール5世の死を伝える合唱。神の言うことに従わず、奢り高ぶった彼を戒める言葉が合唱と共に響く。愛する人を忘れようとするカルロに、「お前の求める安らぎは、神の御許にしかない」と諭す声が聞こえる。そこへ、親友である公爵ロドリーゴが人目を忍んでカルロに会いにやって来て、フランドル解放運動で悲恋を忘れるようカルロを諭す。しかし、何か影のあるカルロを見て、ロドリーゴは自分に悩みを打ち明けてほしいと言う。カルロは、「エリザベッタを愛している」と打ち明ける。ロドリーゴは驚くが、それなら是非フランドルに赴き、多くの民を救ってほしいと力づける。そこへフィリッポ王と王妃エリザベッタが通りかかる。カルロスは激しく取り乱すが、ロドリーゴに改めて勇気づけられ、決意を新たにする。
修道院の傍らで、宮廷の女官たちが王妃を待っている。その中の1人、エボリ公女はスペインはサラセンの歌を歌って暇をつぶそうと言い、女官たちもその申し出に賛成する。しばらくすると王妃が現われ、悩みなく歌うエボリを見て羨ましいと言う。
そこへロドリーゴが現われ、故国フランスの母から王妃エリザベッタへの手紙を渡す。女官たちは去るが、手紙の内容が気になるエボリはその場に残る。ロドリーゴはエボリに手紙を見られないようにエボリの話し相手をする。手紙を開き、それがカルロスからのものであると知ったエリザベッタは、ロドリーゴに望みを言ってみよと言うと、ロドリーゴは「悲しみにくれている王子を、母であるあなたが慰めてあげて下さい」と頼む。その会話を聞き、エボリは王子が自分への恋に悩んでいるのでは、と勘違いする。王妃はついに王子と会う決心をする。ロドリーゴはエボリを連れて去る。
カルロがやって来るが、敢えて事務的な答えしか返さないエリザベッタ。カルロは冷たいエリザベッタの態度を非難するが、エリザベッタは「天に希望を託し、義務に従って生きるしかない」と苦難のうちに答える。それでも「君を愛する」と激するカルロに「あなたの父を殺し、その手で母を祭壇に連れて行きなさい」と激しく叱る。カルロは呪われた自分の身を嘆き、去って行く。
入れ違いに父フィリッポ王が現われ、王妃が宮廷の規則を破って1人でいたことを責める。同時にフランドルに行っていたロドリーゴが軍隊を退いたこともいぶかる。ロドリーゴは、フランドルの惨状を王に訴え、直訴するが、王に「大審問官に注意するがいい」と言って警告される。だが同時に、ロドリーゴの高潔さを尊敬し、王の地位につく者の悲しさを打ち明ける。王妃が王子と浮気をしていないかどうか、という悩みも打ち明け、その動向を探ってほしいと頼む。王が自分に心を開いてくれたことの喜びと、カルロの苦悩を知る者としての葛藤に悩む。
第三幕
宮廷の庭では祝宴が催されている。王妃はエボリを伴って現われるが、祭りの喧騒に疲れ、自分の外套をエボリに渡して、休むために去って行く。エボリは、落ち込んでいる王子を恋に酔わせようと、こっそり置手紙を置いて隠れる。そこへカルロが現われ、置手紙を読んで、王妃がついに自分の愛に答えてくれたと喜ぶ。そこへエボリが現われると、彼女を王妃と思ったカルロは、ここぞとばかり愛の言葉を彼女にかける。彼女はやはり王子が自分を愛していると思って喜ぶが束の間、彼女の顔を見た途端、王子は人違いに気づき、慌てる。エボリに「あなたは天使の心を持っているが、私には幸せは閉ざされたままだ」と言う。先ほどの言葉が王妃へのものであったと知ったエボリは激昂する。そこへロドリーゴが仲裁に入るが、エボリは「私の力を思い知るがいい、王子の命は私の手の中にある」と言い放つ。カルロは「ただ神だけが潔白な者を知っておられる」と自分の不幸を嘆く。ロドリーゴは「王子の命が手の中にあるとはどういうことか」と問いただすが、答えようとしないエボリに業を煮やし、刺そうとするが逆にエボリに「王の寵臣」とののしられる。エボリは最後まで毒づきながら去って行く。カルロは「ロドリーゴが王の寵臣」という言葉を聞いて、一時は彼を疑うが、やはり頼れるものは彼しかいない、と彼に自分の命を預ける約束をする。
入れ違いに群衆が集まり、王を讃える合唱を歌う。舞台は一転して異教徒火刑場になり、修道院の一行が異教徒の罪人を引き連れて現われる。そこへ荘厳な音楽と共にフィリッポ王が現われる。ついに刑を執行しようとした途端、ブラバントとフランドルからの使節を連れたカルロが王に解放を直訴しに現われる。しかし王は「お前たちは神と王に不実だ」と言い放つ。哀れみと全く示さない父王に、カルロはついに刀を抜く。ロドリーゴが王子の剣を取り上げると、王は彼を侯爵から公爵へ格上げする。王子は拘束され、ロドリーゴに裏切られたと確信する。火刑場では薪に火がつけられ、異教徒が処刑される。
第四幕
王妃エリザベッタが1度も自分を愛してくれたことがない、と嘆くフィリッポ王。王として、安らげるのは墓場に入って眠りにつく時だけ、つまり死ぬ時にしか安らぎは来ないとも嘆く。重々しい音楽と共に大審問官が現われる。フィリッポは彼に、王子の反抗を訴え、その始末をどうするかを問う。王子を逃がすか、処刑するかの2択。大審問官は「世界の平和は彼の血に値する」と言って王子の処刑を勧めるが、王は「キリスト教徒の私が息子を殺すことなど出来ない」と答える。だが大審問官に「神は私たちを救うため、その1人子を犠牲にされた」と言われ、王子を処刑することを決定する。大審問官は「ロドリーゴこそあなたの真の敵である」と言い、教会の権威を傘にしてロドリーゴの身元を渡すようにと言う。しかし彼に心を開き、彼を心からの友と慕っている王は、その申し出を拒否する。しかし大審問官に「こんなにも強大な国を与えてやった恩を忘れたか」と言われ、渋々大審問官の言うことに従う。
大審問官が去ると、王妃が駆け込んで来て、「私の小箱が盗まれました」と訴える。しかし王は「小箱はここにある」と言い、その中身を見せろと王妃に詰め寄る。王妃は断るが、王は無理やりに小箱を開ける。そこにはかつての婚約者、王子カルロの肖像画が入っていた。王妃は逃げも隠れもせず、「私はかつては王子の婚約者でしたが、純粋な姿であなたの元に来ました。それを疑われるのですか」と王に言い寄る。王子との不貞を信じて疑わない王は、頑なに王妃を責める。王妃は気を失って倒れる。そこへロドリーゴがやって来て「世界の半分があなたに従っているというのに、ただ1人、意のままにならない方がいますね」と言う。王妃の本当の過去を知ったエボリは、後悔する。エボリに王妃の小箱を預け、去って行く王とロドリーゴ。残ったエボリは、自分が王子に愛されなかった嫉妬から、王妃の小箱を盗み、王に告発したと白状する。告発したばかりか、王と一夜を過ごしたことも打ち明ける。王妃はエボリに、十字架を返すよう言い、夜が明ける前に修道女になるか、追放されるかを選べと言い渡して去っていく。敬愛する王妃にに2度と会えないことと、同時に自分の策が王子を陥れてしまったと嘆く。そして夜明けまでに必ず彼を救い出そうと決意する。(アリア「呪わしき美貌:O don fatale」)
カルロの牢へロドリーゴが潜入。国家分裂を防ぐため、カルロの書類を全て自分の家で押収させ、フランドル問題はすべて自分が首謀者のように操作したと告白した瞬間、宗教裁判所長の刺客に暗殺される。死に際に「あなたの母上が明日、サン・ジュスト修道院でお待ちです」とことづてし、「あなたのために死ねる私は幸せです」と言って事切れる。(なんか…恋人同士の会話みたいだな…って怪しいニオイが!(゚Д゚;)ハッ!)嘆く王子と国王。仲違いしていた父と息子が、初めて同じ心情を分かち合う。すると突然早鐘が鳴り響き、「王を殺せ」と猛り狂った群衆が押し寄せる。エボリがカルロを救おうと、町中で民衆を蜂起させ、押し寄せさせたのだ。そこへ大審問官が現われ、民衆は一時期の感情で猛り狂ったことを神に謝罪する。
第五幕
サン・ジュスト修道院。王妃エリザベッタが「この世の栄華の空しさを知る神よ」とアリアを歌う。そこへカルロが現われ、フランドルへ脱出する前に王妃との最後の別れをする。そこには、この世の愛を超越した愛が歌い上げられる。そこへ父王フィリッポ2世が現われ、追い詰められたカルロは、先帝カール5世の亡霊によって墓に連れ込まれる。後には修道僧たちの静かな合唱だけが響く。