タンクレーディ / Tancredi

この作品について

原作:タッソー 『エルサレムの解放』・ヴォルテール 『タンクレード』
台本:G.ロッシ(伊語)
初演:1813年2月6日 フェニーチェ座(ヴェネツィア)

 アルト歌手のコロラトゥーラが活躍する、珍しいオペラ。この作品もロッシーニらしい軽快な音楽に溢れている。しかし、タンクレーディが今際の際に歌うアリアも、『ロッシーニのフィナーレは賑やか』という常識を打ち破る、静謐なものだ。

登場人物

あらすじ

第一幕
 敵対する2家が和解し、市内に平和が訪れた。両家のアルジリオとオルバツァノは騎士たちとともに力を合わせ、祖国の敵と戦おうと歌う。アルジリオは娘アメナイーデを呼び、オルバツァノとの結婚を迫る。密かに恋人タンクレーディを待つ彼女は、式を1日延ばしてもらう。

 宮殿の庭園に海からタンクレーディが忍び込み、恋人に会える喜びのアリア:この胸の高鳴りに:Di tanti palpitiを歌う。従者ロッジェロはアメナイーデを捜す。そこへアルジリオ父娘が現われ、父は娘に、元老院はタンクレーディの死刑を決定した、サラセン人が市を包囲したので明日は戦争になる、今すぐオルバツァノと結婚せよと言って去る。困惑する娘の前にタンクレーディ。喜びよりも恐怖におののくアメナイーデは、彼に市から去るよう請う。

 教会に通じる広場では、人々が結婚式のために集っている。タンクレーディはアメナイーデに振られたと思い、アルジリオに、匿名の義勇兵として参戦を申し出、了承される。それに気づいたアメナイーデは突如、結婚を拒否。オルバツァノは激怒して、敵将のテントのそばで捕らえたアメナイーデの召し使いが持っていた恋文を読む。一同は彼女の祖国への裏切り行為に驚きと怒りと恐怖を隠せない。彼女の無実の訴えを無視する。

第二幕
 侮辱に憤るオルバツァノは、アルジリオに、娘の死刑宣告書への署名を迫る。苦悩の涙で決意する父。アメナイーデの友人イザウラがオルバツァノを非難する。

 牢の中でひとり不運を嘆くアメナイーデ。そこへ父とオルバツァノらが処刑しに来る。オルバツァノが、自分と決闘してこの女を守ろうとする騎士はいないようだと言うと、タンクレーディが現われ、名を明かさずに手袋を投げる(=決闘を申し込むという意味がある)。受けて立つオルバツァノ。タンクレーディはアルジリオに励まされ、決闘場へ向かう。結果を待って神に祈るアメナイーデに吉報が届く。

 大広間で、勝者タンクレーディの凱旋行進。人々の歓呼の合唱の中、彼はこの地を去ろうとする。アメナイーデが引き止め、無実を訴えるが、彼は信じない。

 朦朧とした意識の中で山中をさまようタンクレーディの苦悩のアリア「私はどこにいるのか」。アメナイーデらと捜しに来た騎士たちが敵との開戦を告げる。我に帰ったタンクレーディは出陣。激戦の末に勝利を得るが、彼は瀕死の深手で戻る。アメナイーデの恋文が自分宛だったことを知り、喜びのうちに死んでいく。