霊媒 / The Medium

この作品について

台本:作曲家自身(英語)
初演:1946年5月8日 コロンビア大学内ブランダー・マシュウス劇場

 ドラマティックでサスペンスに富む作品。死んだ娘の霊と礼拝堂で毎日1時間会話をする女性の姿を実際に見て、その女性の信念に感銘を受けたのが作曲のきっかけと言われている。

登場人物

あらすじ

第一幕……現代。アメリカのある町、フローラのアパートの一室
 霊媒師フローラの娘モニカと、その兄弟で口の利けない美少年のトビーは、フローラの商売用トランクから衣装や宝石を取り出して楽しく遊んでいる。そこへフローラが帰宅、降霊術の準備をするよう2人をしかりつける。
 まもなく、常連客のゴビノー夫妻に連れられてノーラン夫人が訪ねて来る。フローラの降霊術によって、ゴビノー夫妻が幼い頃に死んだ息子と話していると聞いて、愛娘を亡くしたノーラン夫人も、娘との再会を願ってやって来たのだった。モニカは急いで白い布を羽織って隠れ、トビーも霊媒の仕掛けの陰に隠れる。部屋の灯りが消され、フローラがなにやら呪文を唱えると、モニカが白装束を着て現れた。恐る恐る声をかけるノーラン夫人に、モニカは「お母様、嘆かないで。私を忘れるために、身の回りの品をみんなで分けて」と美しいアリアを歌い、再び消える。そして、ゴビノー夫妻には、小さな男の子の笑い声を聞かせる。その時、突然フローラが灯りを点けた。何ものかが自分の首筋に触ったのだ。しかし、そこにいる誰もが「触っていない」と言うので、怖くなったフローラは客たちを帰し、「お前だろう」とトビーを責める。モニカは興奮する母フローラに酒を飲ませてなだめ、子守唄風に「夕日が赤く沈めば」を歌う。

第二幕……再びフローラ夫人のアパートの一室
 数日後の夕暮れ時。楽しげにパントマイムを演じるトビーと、優しく歌うモニカ。しかしフローラの足音がしたため、モニカは自分の部屋へ去る。恐怖のおさまらないフローラは「首筋に触ったのはお前だろう」と再びトビーを激しく責め立てた。そこへ訪れたゴビノー夫妻とノーラン夫人にもインチキ霊媒の種明かしをして追い返し、モニカの必死のとりなしも聞かず、トビーを追い出してしまう。
 ひとりになって幻聴を聞いたフローラは、「怖い、私が怖がるなんて」と歌い、やがて疲れ切って眠ってしまう。こっそりと戻ってきたトビーは、トランクを開けて何か探し物をしているが、物音に気づいたフローラが目を覚ましそうになるのを見て、慌ててカーテンの陰に隠れる。フローラは揺れているカーテンを見て、「誰なの」と声をかけるが、返事がない。恐ろしさのあまり鉄砲を撃つと、白いカーテンがみるみる血に染まる。「幽霊を殺した」と叫ぶフローラ。銃声を聞きつけて走りこんできたモニカは、悲惨な光景に悲鳴を上げて走り去る。カーテンと共に崩れ落ちる人の姿を見て、フローラは初めて、自分が誰を殺してしまったのかを知った──。