この作品について
台本:ロレンツォ・ダ・ポンテ
初演:1786年5月1日 ウィーン・ブルク劇場
題、序曲、アリア共に有名なオペラ。誰もがどこかで聞いたことがあるメロディーが必ずあるはず。そしてこのオペラの最大の魅力は声のアンサンブルにあると言える(ちなみに私は2幕の2重唱「開けてよ早く」が好きです)。それぞれの登場人物が同じ曲の中で、違う言葉・違うリズム・違う感情で歌っているのにそれらが違和感なくハーモニーになっているモーツァルトの作品は、やはり秀逸であると言える。
登場人物
- アルマヴィーヴァ伯爵夫人/ソプラノ
伯爵と大恋愛の末、めでたく結婚したのだが(詳しくはロッシーニの「セヴィリヤの理髪師」を参照)、伯爵は最近、若い小間使いのスザンナに夢中。そのせいで、物悲しい雰囲気漂うアリアが多い。キャラ的には地味だが、アリアは激ムズ、貫禄も必要なことから、ベテランのソプラノ歌手が歌うことが多い。 - スザンナ/ソプラノ
伯爵家の小間使いでフィガロの婚約者。細かいこともよく気づき、機転も利く優秀な女中。ラストではめでたくフィガロと結ばれる。スーブレット(小間使い役)の金字塔的キャラクター。 - ケルビーノ/メゾ・ソプラノ(又はソプラノ)
伯爵家の小姓。女性が男性を演じる、いわゆるズボン役。伯爵夫人に想いを寄せているが、スザンナにも言い寄る、思春期の少年。アリアは2曲とも、他の何よりも圧倒的に有名。ちなみに、彼の成長後がドン・ジョヴァンニ(好色な貴族)という諸説もある。後編では、伯爵夫人が彼の子供を生むという話もあるとかないとか。(どっちやねん。) - フィガロ/バリトン
伯爵家の従僕。もともとは理髪師。スザンナ同様、機転が利くが、どうやらスザンナのほうが一枚上手のようだ。 - アルマヴィーヴァ伯爵/バリトン
セヴィリヤ郊外の領主。大恋愛で結婚したが、若い女中を狙うという癖の悪い男。最後にはあっさりと負けてしまうため、そんなに悪いやつには見えない。どうやら、根のない悪役…らしい?! - マルチェリーナ/メゾソプラノ
自分に借金があるフィガロに、借金を帳消しにする代わりに結婚しろと迫り、スザンナとフィガロの取り合いをする年増(実もフタもない…)。(年増と言っても、30代そこそこかと思われる。)しかしフィガロが、かつて盗賊に誘拐された我が子と分かると、スザンナとの結婚を大いに祝福し、最後は味方に。母の愛恐るべしと言ったところか。
あらすじ
第一幕
お屋敷のある一部屋。もうすぐ結婚式を迎えるフィガロとスザンナの新しい部屋である。フィガロは部屋の寸法を測り、新しくしつらえたベットがちょうど入る、とご機嫌。だがスザンナはあまり嬉しそうではない。伯爵に用意してもらったこの部屋、実は伯爵の寝室のすぐ前に位置する。なぜかと言うと、伯爵がフィガロを遠くへ遣っている間に自分をモノにしようと企んでいるからだ、とフィガロを説得する。フィガロはそんなことは、と言うがスザンナの言うこともありえないことはない。もし踊りをなさりたければ:Se vuol ballareをあっけらかんと歌う。そしてフィガロは伯爵に呼ばれて行く。そこへケルビーノが登場。彼はうら若い少年なのだが、思春期で恋心が芽生えたばかり。だがその多感な感情を自分で処理できず、自分で自分が分からない:Non so più cosa sonと思い悩む。何を誰あろうと愛を語りたがり、スザンナに言い寄る。スザンナはいつものことだと軽くあしらう。そこへ伯爵が入ってくる。ケルビーノはいつも伯爵に怒られてばかりいるので(仕事もせず遊び歩いているため)、とっさに隠れる。伯爵はケルビーノがいるとも知らず、スザンナを口説きにかかる。そこへバルトロがやって来て、伯爵は驚くが、隠れていたケルビーノを見つけてさらにびっくり。ケルビーノの女たらしっぷりが気に障る伯爵は、ケルビーノを士官としてセヴィリヤに派遣するよう言い渡す。愛する伯爵夫人とも別れなければならないケルビーノは絶望に打ちひしがれるが、フィガロの頭に妙案が浮かぶ(詳しくは第2幕で明らかに)。フィガロは伯爵にそれがばれぬよう、もう飛ぶまいぞ、この蝶々:Non più andraiと、半ばケルビーノをからかいつつ、セヴィリヤに送った振りをする。
第二幕
伯爵夫人が部屋で伯爵の浮気性を嘆き、過ぎし愛を思い起こす(愛の神よ:Porgi amor)。そこへスザンナがやって来る。彼女は、みんなで一計を案じて伯爵を懲らしめてやろうという。その作戦とは、フィガロが考えた、伯爵に夜の密会の約束をして、そこへ女装させたケルビーノをやって驚かせてやろうというものだった。さっそく呼ばれたケルビーノは、伯爵夫人との別れを惜しみ、自分が作ったカンツォネッタを歌って聞かせる(恋とはどんなものかしら:Voi che sapete)。ケルビーノの声と曲の美しさを褒める伯爵夫人に、ケルビーノはメロメロ。しかし息つく間もなく、さっそく女装の練習(?)に取り掛かる。そこへタイミング悪く伯爵が来てしまう。逃げ場のないケルビーノはとっさに衣裳部屋に隠れ鍵をかけるが、どうもばれている様子。そこへ衣装を取りに行っていたスザンナが戻ってくるが、伯爵夫妻のただならぬ状況に、ついたてに隠れ、2人の話から衣裳部屋にケルビーノが隠れていることを知る。伯爵は、何が何でも衣裳部屋を開けてやる、と伯爵夫人を伴って、しかも部屋に鍵をかけて出て行く。今のうちに、とケルビーノは窓から飛び降りて逃げ、スザンナは入れ替わりに衣裳部屋に入っておく。戻ってきた伯爵夫妻は衣裳部屋からスザンナが出てきたのでびっくり。スザンナと伯爵夫人が伯爵を責めていると、フィガロが結婚式のための楽士を連れてきた、と部屋にやってくる。そこへ庭番のアントーニオが「この部屋の窓から男が降ってきた!」と怒りながら入ってくる。しめたとばかりに伯爵は3人を問い詰めるが、「飛び降りたのはこの俺です」とフィガロに言いくるめられ、アントーニオが、その男が落としたという紙も、ケルビーノの、押印の足りない出征の辞令と答えられてしまう。万事解決か、と安心する間もなく、マルチェリーナ・バルトロ・バジーリオの3人が入ってきて、「昔フィガロに貸した金を未だ返してもらっていないので、誓約書通りマルチェリーナはフィガロと結婚するように」とまくしたてる。困り果てるスザンナたち3人と、勝ち誇る伯爵たち4人の重唱で幕。
第三幕
スザンナが伯爵の部屋にやって来る。彼女は、伯爵の誘いに乗ったふりをして、結婚の持参金を伯爵からしっかり受け取る。出て行こうとしたところでフィガロが現れる。スザンナは出て行きながら彼に「私たちは弁護士なしで裁判に勝ったのよ!」と言う。意味の飲み込めないフィガロ。これを聞いていた伯爵はわけがわからず、ちんぷんかんぷん(「アリア:訴訟に勝っただと!」)。
そうこうしているうちに弁護士やマルチェリーナたちがぞくぞくと入ってくる。フィガロとなんとしてでも結婚しようとするマルチェリーナに、「私は貴族の出身なので親の承諾のない結婚はできません」と言う。なんと、フィガロは昔、赤子のときに盗賊にさらわれた、マルチェリーナとバルトロの実の息子だったのである!これでは結婚なんてできない、と弁護士。感激し、昔の愛を思い出すマルチェリーナとバルトロ。3人は家族として、互いに抱擁し合う。そこへ持参金を持ったスザンナが借金を返すべくやって来るが、マルチェリーナと抱擁し合うフィガロを目撃。もう新しい相手とよろしくやってるのか、と怒るが、事情を聞いて納得。借金は帳消し、持参金も結婚祝いとしてもらえることになった。
伯爵夫人は1人、スザンナの作戦が成功したかどうかを案じている。やがて、昔の過ぎ去りし愛を思い、悲しみと哀愁のうちにアリア:楽しい日々はどこへ:Dove sonoで胸のうちを痛切に歌う。作戦の第2段階として、伯爵宛に偽の密会の手紙を書くスザンナと伯爵夫人(「手紙の2重唱」)。手紙にピンで封をして完成。ついに2組のカップルの結婚式が盛大に始まる。1組はフィガロとスザンナ、もう1組はバルトロとマルチェリーナ。式の間にさきほどの手紙をこっそり渡すスザンナ。中身を見てほくそえむ伯爵。合唱とマーチで華やかに終わる。
第四幕
アントーニオの娘のバルバリーナが小部屋でピンを探している。そこでフィガロはバルバリーナから、スザンナと伯爵が今夜、庭で会う約束をしたことを知ってしまう。伯爵を懲らしめる作戦だとは知らないフィガロは、悲しみに打ちひしがれるが、マルチェリーナは、何か策があるに違いない、と息子をなぐさめる。そしてお互いに衣装を取り替えたスザンナと伯爵夫人がやってくる。スザンナはフィガロが隠れて見張っていることを知り、大きな声で「とうとうこの時がやってきたわ、愛する人の腕に抱かれる時が」と歌う。と、そこへケルビーノがやってきてしまう。あわや作戦が台無しに、という時に伯爵が現れ、ケルビーノを追い出す。スザンナ(に扮した伯爵夫人)と伯爵は暗がりに去って行く。新妻の裏切りを確信したフィガロの所に伯爵夫人(に扮したスザンナ)がやって来る。フィガロは声でスザンナだと見抜くが、騙されたお返しに、と情熱的に愛を語る。フィガロが裏切った、と思い込んだスザンナは平手打ちをくわすが、お互い知っててやったこと、と気付いて丸くおさまる。そこへ偽スザンナとはぐれた伯爵がやって来る。この辺でそろそろ、とスザンナとフィガロが一芝居。偽伯爵夫人にフィガロが愛を告白している所を見せ、2人連れ立ってあずまや(小部屋みたいなもの)に入って行く。それを目撃した伯爵は、みなを呼び集め、フィガロを引きずりだす。続いて偽伯爵夫人(ヴェールで顔を隠している)も引っ張り出す。許さないぞ、と言い張っているところへ、本当の伯爵夫人が登場。事の全てを悟った伯爵は、反省しながら、伯爵夫人に許しを乞う。夫人は伯爵を許し、全員の喜びと共に幕。