この作品について
原作:クリストフ・マルティン・ヴィーラントの童話集 『ジニスタン』の中の『ルル、または魔笛』
台本:ヨハン・エマヌエル・シカネーダー
初演:1791年9月30日 ウィーン・アウフ・デア・ヴィーデン劇場
モーツァルトの死の3ヶ月前に初演された彼の最晩年の傑作。彼の親友・シカネーダーによって書かれた台本による。おとぎ話のようなストーリーだが、秘密結社フリーメーソン(ヨーロッパ中に広まった「徳性による人間の完成」を目指す神秘主義的な団体)の思想が色濃く反映されている。ドイツ語によるジングシュピール(歌芝居)である。
善悪の転換や、多くの登場人物、神秘的な儀式(らしきもの)があり、やや複雑なあらすじだが、1度のみこんでしまえば、それ以外に散りばめられているモーツァルトの細かい設定や考えに気づけるかもしれない。
真面目な(?)オペラかと思いきや、パパゲーノのシーンやモノスタトスのシーン、場合によっては、最初にタミーノが大蛇で気を失う場面すら、面白く演出されることもあり、それのおかげか、かなり親しみやすいオペラとされている。内容はけっこう難しいと思うんですが。
「王子様がお姫様を助けて(実際は、悪い母親(?)から隔離されているだけだが)最後はハッピーエンド」とくくってしまえば話は早いが、その裏に「自然と理性の相反」が見え隠れする、なんとも学者魂を刺激するオペラ(?)。
登場人物
- 夜の女王/コロラトゥーラ・ソプラノ
オペラ界でもっとも有名なアリアを歌う役ではなかろうか。しかも役柄も独特で、最初は自分は善でザラストロが悪だ、と言うが、本当の悪役は彼女だという大どんでん返しが待っている。他のソプラノの追随を許さぬ高音域で超人さ、異世界のもの、超絶さをという役柄を表しているのではなかろうか。真中のドから2オクターブ上のドの上のファが出る人はぜひ歌ってみよう! - パミーナ/ソプラノ
夜の女王の娘。母に似ず(?)、良い役。実はタミーノと共に主役だったりするが、夜の女王の存在感に負けてしまっているような‥。でも奇麗なアリアあり、最後はハッピーエンドと、オイシイ役?! - タミーノ/テノール
王子。いきなり大蛇に遭って気絶したり、ちょっと頼りない王子だが、試練に耐え、最後には愛するパミーナと結ばれる。モーツァルト的には、日本人をイメージしたらしいです。 - パパゲーノ/バリトン
鳥刺し。ちなみに、初演の際、この役は、台本作家であり、モーツァルトの友人でもあったシカネーダー自身が演じた。モーツァルトもそのことを想定して作曲していたらしい。シカネーダーという人の個性が生かされている役という風に見れば、当時の様子が想像できて面白いかもしれない。バリトン歌手が生きる役の1つ。 - パパゲーナ/ソプラノ
若い娘。パパゲーノとセット(?)で登場。 - ザラストロ/バス
高僧。最初は悪役と言われるが、実はこっちが味方。かなりの低音が要求される。
あらすじ
第一幕
旅をしている王子タミーノは、ある国で大蛇に襲われ、失神してしまう。すると3人の侍女が大蛇を退治し、主人である夜の女王のもとへ報告に行く。その間に、夜の女王へ鳥を献上する鳥刺しのパパゲーノが鳥の羽の衣装で現われ、気がついた王子に、大蛇は君が倒してくれたのか、と聞かれ、つい自分が退治したと嘘をつく。そこへ戻ってきた侍女は罰としてパパゲーノの口に錠をかけてしまう。そして王子に、夜の女王の娘パミーナの肖像を見せる。肖像を一目見てパミーナに一目惚れしたタミーノは肖像のアリアで、パミーナへの想いを歌う。すると女王が、悪漢ザラストロに捕らえられた娘を救い出してくれたら娘をやろう、と話し掛けて消える。王子には魔法の笛(これが題にある『魔笛』)、お供をすることになったパパゲーノには銀の鈴が与えられ、2人はパミーナ救出の旅に出かける。
エジプト風のザラストロの館。ザラストロのしもべであるモノスタトス(テノール)が、パミーナに言い寄っている。そこへパパゲーノが入り込むと、モノスタトスはパパゲーノの風体に驚き、逃げていってしまう。パパゲーノは彼女がパミーナであることを確かめ、ザラストロが来る前に逃げ出す。館の正面で、王子はパミーナが無事であることを知り、喜びに魔笛を吹く。すると森の動物たちが現われて、その音色に耳を傾ける。そこへパパゲーノとパミーナがやって来る。パパゲーノが鈴を鳴らすと、追っ手は踊りだしてしまう。しかし逃げ切れず、ついにザラストロが登場。彼は実は聖者で、夜の女王こそ悪であることが判明。パミーナはザラストロに許しを請い、逆にパミーナに言い寄っていたモノスタトスは罰せられる。王子はザラストロの考えに深く同意し、パパゲーノと共に聖なる神殿で試練を受けることになる。
第二幕
ザラストロは、僧たちから、王子とパパゲーノを試練にかけることの同意を得る。真面目なことが嫌いなパパゲーノは乗り気ではないが、試練を乗り切ればパパゲーナという娘を得られる、と聞いてやる気になる。
まず最初の試練は、笛と鈴を取り上げられ、地底での沈黙を守る事。王子は固く約束を守るが、パパゲーノはやって来た3人の侍女としゃべるわ、ひとりでしゃべりまくるわ、食べるわ飲むわ…。3人の童子から魔笛と鈴を返してもらった王子が笛を吹くと、パミーナが現われる。話さないことを試練と知らないパミーナは、王子が一言も話してくれないので、失恋したと思ってしまう。パパゲーノのところには、18歳と2分だという老婆が現われ、私はパパゲーナと名乗って消える。タミーノだけが最初の試練をクリアする。
場は変わって、1人パミーナが寝ている。そこへ夜の女王が現れ、パミーナに短剣を渡して、それでザラストロを殺すよう言い渡す。パミーナが反論すると、地獄の復讐は炎と燃え:Der Hölle Rache kocht in meinem Herzenを歌い、去って行く。それでも殺人はできない、と残されたパミーナは苦しむ。
タミーノは次の試練である、火と水の試練へ。取り残されたパパゲーノはしぶしぶながら老婆に愛を誓うと、老婆は美しい18歳のパパゲーナとなるが、それも束の間、またもや消えてしまう。タミーノに嫌われた、と絶望していたパミーナだが(愛の喜びは露と消え:Ach, ich fühl's, es ist verschwunden)、3人の童子から真実を教えられ、王子と共に試練を受ける決意をする。タミーノとパミーナは共に試練を受けることを許され、魔笛の力を借りて試練をくぐり抜け、皆から祝福を受ける。パパゲーノも無事地上に脱出。パパゲーナとの再会に喜びの2重唱「パ、パ、パ」を歌う。そこにモノスタトスに先導された夜の女王と3人の侍女が攻め入ってくるが、激しい雷雨が彼らを撃ち、倒してしまう。後には太陽が輝き、僧たちが神を讃えて幕となる。