私、君、あなた 〜主語人称代名詞〜

Io son l'umile ancella.
私は芸術の卑しい下僕(しもべ)です。
チレア作曲「アドリアーナ・ルクヴルール」より
アドリアーナのアリア「私は芸術の卑しい下僕です」

どの言語にもつきものの、「主語人称代名詞」。
「私」「君」「彼ら」…文法を学んでいると必ず目にする言葉ですね。
イタリア語では、以下のように主語人称代名詞が決まっています。

単 数複 数
1人称io(イーオ):私noi(ノーイ):私たち
2人称tu(トゥ):君voi(ヴォーイ):君たち
3人称lui(ルーイ):彼
lei(レーイ):彼女
loro(ローロ):彼ら/彼女ら
敬称Lei(レーイ):あなたLoro(ローロ):あなたがた

上の表で「敬称」の部分が、最初が大文字になっています。
これは私のタイプミスなわけではなく、大文字で書くことで
「3人称ではなく、2人称の敬称です」ということを表しているのです。
では、以上のことをふまえて次の文章を見ると、どうでしょう。

Eri tu che macchiavi quell'anima,

2人称の「tu」がありますね。
「テュ」ではなく、「トゥ」と発音して下さい。
他の単語の意味が分からなくても、とりあえず「君」に関して、
しかも親しい相手に関してのことを言っていることが分かります。
実は、話し言葉には、あまり「主語人称代名詞」は出てきません。
なぜなら、主語は省略可能だからです。

アリアでは、書き言葉に近いオペラ(古い時代のもの)には
「主語人称代名詞」がそれなりに使われていますが、
話し言葉に近いオペラ(新しい時代のもの)になると
「主語人称代名詞」が減っていく、という傾向があるように思います。
これは、古い時代のアリアが「詩」であるのに対し、
新しい時代のアリアが「詩」の形式を脱し、
「話し言葉」に近づいた結果だと、私は思っています。
(違ってたりして(笑))

では、人称代名詞が無い場合、いったい何で主語を知るのでしょうか。
ヒミツは「動詞の活用」にあります。
では次項では、動詞の活用を見て行きましょう。