原作:オスカー・ワイルド 『サロメ』 台本:ヘドヴィッヒ・ラッハマン(独語訳) 初演:1905年12月9日 ドレスデン宮廷歌劇場 |
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あまりに衝撃的な内容のため、一時期上演禁止になったほどの作品。多くのオペラにあるような独立したアリアは存在しないが、サロメが官能的な踊りを披露する「7つのヴェールの踊り」は独立したオーケストラのナンバーとして有名。途中で途切れる事なくドラマは展開する。オーケストラが人々の感情の起伏を克明に描き出す、シュトラウスの傑作。 聖書に記されている話(新約聖書マタイ14章)をもとに、脇役的存在だったサロメに脚色したもの。見どころは、銀の盆に乗せられた、預言者役ソックリの生首?! |
サロメ ソプラノ
ユダヤの王女。ヘロディアスの娘で、17才(無理のある設定?!)。ヨカナーンに一目惚れするが、実はこれが初恋。王女としてわがまま放題に育てられ、望んだものは全て手に入れてきた。しかし、ヨカナーンが自分の思うようにならないのを見て悶える。彼女が、ヨカナーンを得るために用いた手段は、自らの命をも奪った。登場してからはほとんど出ずっぱりで、強靭な声が要求される。裸になって踊らなければならない「7つのヴェールの踊り」は、実は歌以上に大変??実は彼女の「サロメ」という名前、聖書にはどこにも記されていなかったりする。
ヨカナーン バリトン
預言者。荒野で救い主イエスが来られることを人々に伝えていたが、ヘロデとその妻ヘロディアスの罪(ヘロディアスはヘロデの兄の妻だった)を指摘していたため、ヘロデに捕えられていた。「ヨハナーン」と発音される場合も。
ナラボート テノール
ヘロデの兵士たちの隊長。サロメに思いを寄せているが、自殺してもサロメに見向いてもらえない、ちょっとかわいそうな人。
ヘロデ テノール
ユダヤの王。実は妻のヘロディアスの尻にしかれている。義理の娘サロメに欲望の眼差しをいつも向けている。ヨカナーンを捕らえるが、彼に危害を加えると自分の身に何か起こるのでは、と恐れてヨカナーンには手が出せない。
ヘロディアス メゾ・ソプラノ
ヘロデの妻。自分を非難するヨカナーンを殺す機会を狙っている。娘に自分の地位を取られてしまうのではないか、と思っている。宝石や金に目がない。無類の男好き。どうやら不倫もしているようだ??ヨカナーンに異常なほど嫌悪感を示すのも、実は無意識のうちに彼に性的魅力を感じているからだ、という説もある。
小姓 メゾ・ソプラノ(アルト):ズボン役
ヘロディアスの小姓。サロメに熱い視線を送るナラボートを諌(いさ)める。だが、その諌め方も単なる友人に対してではなく、同性愛的な感情から来るもののようだ。これから起こる狂気の悲劇を予感させる役柄である。
王の催す 盛大な宴会
王のそばに座る王女 サロメを見つめる青年
──兵士たちの隊長、ナラボート──
彼は これから始まる悲劇を知らない
話はここから 始まる
彼の熱い視線に 王女は答えない
それでも彼女を思い続ける彼に 小姓は忠告する
「そんなに彼女を見るんじゃない 恐ろしい事が起こるぞ」
恋する彼の耳に 友人の忠告は入らない
そこへ 宴会に飽きたサロメが飛び出して来る
「もうあそこには いたくないわ
なぜ王は あんな目で私を見るのかしら?」
澄んだ夜の空気に 彼女の気持ちは癒される
だが その平和も 長くは続かない
預言者ヨカナーンの声が 王宮の庭に響き渡る
不法に投獄された預言者の 神の言葉を伝える声は
傲慢な王女の心に響いた
王女の心に湧いた 欲望とも言える好奇心
それが 悲劇の第一歩とも知らずに 彼女は求める
「その預言者と話がしてみたいわ」
しかし 王は誰もその預言者と話してはならぬ、と命じている
だが王女は 彼女はまるで出来ない事はないかのように 叫ぶ
「その預言者と話がしたいの!!」
ナラボートは困惑する
他ならぬ王女の頼み だが
もし叶えたなら 王女は自分を見てくれるかもしれない…
一縷の望みを持って 彼は決心する
それが 破滅への道だとも知らずに
「預言者を牢から出せ!」
暗い穴底に閉じ込められていた預言者が ゆっくりと姿を現す
その神々しい姿に 誰もがしばし言葉を失う
そんな中で 預言者は口を開く
「人々が見守る中 銀色のマントを来て殺される女は どこにいる?」
預言者の語る不思議な言葉と その声の響きに 魅了されるサロメ
王が宴会に呼び戻す声も ナラボートが止める声も
もはや 彼女の耳には 入らない
愛する王女が 目の前で預言者に惹かれていく
苦悩の末 ナラボートは自刃する
それでも 王女は 彼に見向きもしなかった
今 彼女の心を占めるのは ヨカナーンに対する欲望
──彼の身体を 心を 自分のものにしたい──
しかし 彼女の歪んだ願いは ことごとく拒絶される
「サロメ、バビロンの娘よ。
お前は 呪われているぞ!」
かつてない屈辱 なぜ自分の思い通りにならないのか
それ以上に 彼女は彼の全てを渇望する
ヨカナーンは彼女を拒絶し続け そして自ら牢へ戻って行く
入れ代わるように ヘロデ王が出て来る
サロメが 宴会に戻るようにと
だが 彼女はその誘いを 頑なに拒否する
「わしのために 踊ってくれたなら 何でも欲しい物をやろう」
その瞬間 サロメの心に ある考えが浮かんだ
意を決して彼女は踊り出す
ヘロデを喜ばせるための 官能的な踊りを
飛び跳ねる身体
美しき預言者を渇望する心
サロメは踊る 自らの欲望のために
彼女の渇望を見知ったかのように鳴り響く音楽
身体の覆いを全て取払い 彼女は踊った
「すばらしいぞ サロメ! 褒美をやろう! 何が望みだ?」
「預言者ヨカナーンの首を」
予想だにしなかった言葉に 皆が驚く
ただ一人 喜んだのはヘロディアス
王は必死で 考えを改めさせようとする
──預言者に手をかけて 恐ろしい事でも起こったら──
それでも サロメは 王に迫る
「預言者ヨカナーンの首を!!」
渇望に狂った少女は ひたすらに望む
必死の説得も もはや彼女の心を動かさなかった
王は遂に 命令を下す
「彼女の望むものを 与えよ」
兵士たちが 命令を遂行するために 牢屋に下りていく
あたりを包む 不気味な静寂
ゆっくりと 銀の盆に乗ったヨカナーンの首が差し出される
正しき預言者は その命を絶たれた
少女の 欲望のためだけに
首の乗った盆を 恍惚の表情で受け取る少女
少女はかつて出来なかった 自らの欲望を満たす
ヨカナーンの首に向かって語り 彼女は至福の時を過ごす
そして ゆっくりと口づけをする
遂に 彼女の渇望は 満たされたのである
だが 少女の平安は 永遠ではなかった
少女の狂気に 恐れ慄いた王の声が響く
「その女を 殺せ!!」
母ヘロディアスの目の前で 兵士たちに八つ裂きにされる少女
その時 彼女は 銀色のマントを 羽織っていた
* END *