ニーベルングの指輪【第3夜】神々の黄昏 / Der Ring des Nibelungen - Götterdämmerung

この作品について

台本:作曲家自身
初演:1876年8月17日 バイロイト祝祭劇場

 タイトルの「黄昏」が示す通り、これは英雄が、ひいては世界が凋落(おちぶれること)していく過程を書いたオペラ。というわけで、ヒーロー、ヒロイン以上に悪役が大活躍する。「ラインの黄金」で無の世界からヴァルハラ建設が始まり、この話で炎と洪水によって世界が原始の状態に戻る。全ては繰り返し、ということか。
 ちなみに、大規模オンラインゲームの「Ragnarok」は「偉大なる神々のさだめ」(これを詩的に訳すと「神々の黄昏」)という意味であり、このオペラを同意義である。出てくる名前や地名などもこのオペラと同様、北欧神話に基づいている。神話は人の心に、共通したなんらかの考えを起こさせるのだろうか。
 しかし、神話に出てくる神々というのは、実に人間くさい。所詮は人間が考え出したものに過ぎないからである。



登場人物

あらすじ

第一幕
 3人のノルンがトネリコの樹の周りで運命の糸を紡ぎながら、これまでの経緯や未来について語る。やがて彼女たちの予知能力に混乱が生じ、糸が切れてしまう。3人は永遠の知恵の終焉を悟り、母親エールダがいる大地の下へと姿を消す。その後、幸福いっぱいのジークフリートとブリュンヒルデが姿を現わす。自分の指輪をブリュンヒルデの指に残し、ジークフリートは彼女の愛馬に乗って旅立って行く。
 場所は変わって、ライン河のほとりのグンター城の広間。当家の長グンターの異父弟ハーゲンは、ジークフリートを陥れようと計画しており、グンターにブリュンヒルデを娶るよう勧める。そこにやってきたジークフリートは、彼らと兄弟の誓いを交わし、何も知らずに忘れ薬の入った酒を飲み、愛妻の記憶を完全に失ってしまい、美しいグートルーネに求婚する。ジークフリートはグンターに乞われるまま、ブリュンヒルデを連れて来ることを約束する。
 一方、ブリュンヒルデのもとに妹のヴァルトラウテがやって来る。ヴァルトラウテは姉に、その指輪を今すぐラインの乙女に返さないとあなたにも呪いがかかる、と警告する(ヴァルトラウテのアリア「しっかり聞いて、私の言うことを!:Höre mit Sinn, was ich dir sage!」)。だが、ブリュンヒルデは愛するジークフリートから送られた愛の証である指輪は捨てられないと、妹の警告を頑なに拒む。ヴァルトラウテは諦めて帰ってしまう。
 やがて、変装したジークフリートがブリュンヒルデのいる岩山に侵入。ジークフリート以外入ってこれないはず、と驚く彼女から彼は指輪を奪い取る。

第二幕
 ハーゲンは夢に現れた父アルベリヒに指輪を取り戻すことを誓う。そこへジークフリートと、花嫁ブリュンヒルデを連れたグンターが帰城する。夫の姿を認めて驚いたブリュンヒルデは、指輪を奪ったのがほかならぬ彼であることを知り、復讐を誓う。ハーゲンはそんな彼女に巧みに取り入り、ジークフリートの弱点を聞き出す。

第三幕
 3人のラインの乙女が河畔の森で、黄金が失われたことを嘆いていると、狩の途中で道に迷ったジークフリートがやって来る。彼女たちは「今日中にあなたは殺される」と告げて河に消えていく。やがてグンター、ハーゲン、家臣たちがやって来て酒宴となり、ジークフリートは自分の過去を物語る。その昔話から、グンターはジークフリートとブリュンヒルデがすでに夫婦であったことを知る。その時、一瞬の隙を見せたジークフリートは、ハーゲンに唯一の弱点である背を槍で刺され、息絶える。一同は驚くが、ハーゲンは「兄弟の誓いを破った罰だ」とまともに取り合わない。
 グンターの城にジークフリートの遺体が運び込まれる。ハーゲンは「偽りを言って騙した」となじるグンターを殺し、ジークフリートの指から指輪を取ろうとするが、死んだ英雄の手が上がり、それを拒否する。この時、ブリュンヒルデがおごそかに進み出る。彼女はライン河畔に薪を積み上げて火をつけるよう命じるとともに、指輪は乙女たちに返すと告げ、英雄の亡骸を焼いた炎の中に、自らも愛馬を駆って飛び込んでいく。ライン河の水が氾濫し、指輪を取ろうとしたハーゲンもその中に飲み込まれる。天上のヴァルハラ城も炎上し、すべてが炎に包まれる。