この作品について
台本:作曲家自身
初演:1876年8月16日 バイロイト祝祭劇場
やっと「指輪」のヒーローの登場である。何事にも屈せず、自然の中で無邪気に育ったジークフリートが、最後はヒロイン、ブリュンヒルデと出会い、見事結ばれる。だがよく考えると、ブリュンヒルデはヴォータンの娘で、ジークフリートはヴォータンの孫にあたる間柄。ここにも近親同士の婚姻関係という片鱗が見てとれる。大丈夫か、ワーグナー。大丈夫か、北欧神話。
登場人物はたったの7人(+1羽)で、音楽も室内楽的な透明な響きがして、ほのぼのと明るく親しみやすいのが特徴。ジークフリートの人柄を反映しているのだろうか。
大蛇を退治して、小鳥と言葉を交わして、炎の向こうには眠れる美女が待っている……と、ドイツの森の奥のメルヘンの世界が繰り広げられる。
登場人物
- ジークフリート/テノール
ジークムントとジークリンデとの間に生まれた。怖れを知らない若者。純粋だが無知。どうでもいい話だが、ワーグナーは息子にもこの名前をつけた。相当のお気に入りだったようだ。さらにどうでもいい話だが、息子ジークフリートは、ワーグナー一族には珍しく、温和で他人とのつきあいが上手な人だったとか。 - さすらい人/バリトン
実は旅人の姿をしたヴォータン。初めてのお使いを見守る親レベルの発想。 - 森の小鳥/ソプラノ
ジークフリートに情報を提供。
(前夜以前と同じ登場人物は省略。)
あらすじ
第一幕
深い森の中の岩屋。ジークリンデは男の子を産み落として死んでしまったが、その孤児ジークフリートは、アルベリヒの弟ミーメ(覚えてる?)に育てられて立派に成長した。一方この近くでは、巨人ファーフナーが大蛇に姿を変えて指輪を初めとする財宝を守っている。ジークフリートに大蛇を打ち倒させ、指輪を自分の物にしようと企んでいるミーメは、昔ヴォータンによって砕かれたノートゥングの溶接を試みるが、どうしても成功しない。
そこへ、さすらい人の姿をしたヴォータンが現れ、ミーメに「怖れを知らぬ者だけが剣を再生できる」と謎めいた言葉を残して去る。やがてノートゥングの剣は、ジークフリート自らの手で鋳造される。この場面、ジークフリート役の歌手は歌いながらカンカンと打楽器奏者も兼ねなければならないので、非常に体力が要求される。その間、ミーメはジークフリートを殺すための毒薬を作っている。
第二幕
大蛇ファーフナーの洞窟の前。財宝を盗む機会を狙って潜んでいるアルベリヒの前にヴォータンが現れ、昔のことで口論になる。ヴォータンはファーフナーに「命が危ない」と警告を与えて去って行く。やがて夜明けが近づく頃、ミーメが「お前が知らない『怖れ』というものを教えてやろう」とジークフリートをそそのかし、連れ立ってやって来る。だがジークフリートはあっけなく、鍛えなおしたノートゥングで大蛇を倒す。指についたその血をなめると、小鳥の言葉が分かるようになる。小鳥の忠告を受けた彼は、毒を盛ろうとしたミーメを一撃のもとに斬り倒す。最後までいい思いができなかったミーメ。今度は、ジークフリートは小鳥に、炎に囲まれて眠っている乙女の場所を教えられて、ジークフリートはその女性ブリュンヒルデのもとへと出発する。
第三幕
ブリュンヒルデの眠る岩山に、小鳥に導かれてジークフリートがやって来る。その行く手にヴォータンが立ちはだかるが、ジークフリートは剣を抜いてヴォータンの槍を叩き折ってしまう。だが、ジークフリートにわが娘ブリュンヒルデをめとらせ、神々の世界の遺産を担わせようと考えているヴォータンにしてみれば、この英雄の出現は喜ぶべきことだった。ジークフリートが角笛を吹きながら火の中に進み入ると炎はおさまり、鎧と盾に覆われて眠るブリュンヒルデが見える。ジークフリートはその姿に接して初めて「怖れ」というものを知る。
ジークフリートは彼女を目覚めさせ、初めは不安におののいていたブリュンヒルデも、やがてジークフリートの腕の中に固く抱かれるのだった。