台本:ユリウス・ブランマー、アルフレート・グリューンヴァルト 初演:1924年2月26日 テアター・アン・デア・ウィーン |
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「片足はハンガリーの音楽の土壌に、もう一方の足はウィンナーワルツが湧き出す舞踏会に立っている」と称されるカールマンの音楽だが、この作品では特に、ハンガリーの哀愁を帯びた音楽が特徴的だ。 時は1920年、それまでの貴族社会から商業社会(つまり現代のような資本主義)に移り変わる時代の中で、あくまで階級社会に生きる貴族たちと、自由に暮らすロマたちという、相反するものの混在というテーマを持つ作品でもある。 |
マリッツァ ソプラノ
伯爵令嬢。管理しきれないほどの土地と財産を持っているがゆえに、多くの男性に言い寄られるが、その誰もが彼女の財産目当てであるため、彼女は恋をすること自体に嫌気がさしている。しかし、マリッツァの財産に少しも興味を示さない管理人ベラ・テレーク(実は伯爵タシロ)に、密かに恋心を抱く。
タシロ テノール
実は破産してしまったヴィッテンブルク伯爵家の長男。妹リーザの学費を払うため、身分を隠し、名前を「ベラ・テレーク」と変えて、マリッツァの領地の管理人をしている。金目当てではなく、マリッツァに恋をしている。
リーザ ソプラノ
タシロの妹。実家であるヴィッテンブルク伯爵家が破産したことを知らない。パーティで出会ったジュパン男爵に思いを寄せている。
ジュパン男爵 バリトン
マリッツァが、言い寄る数多の男性を追い払うため、「コローマン・ジュパン男爵と婚約した」と実在しないはずの人物との婚約発表パーティを開いたところ、同姓同名だったのがこの人。最初はマリッツァに求婚するが、次第にリーザに惹かれていく。
タシロの実家、ヴィッテンブルク伯爵家は破産してしまったが、妹リーザはそれを知らない。タシロは妹の学費を稼ぐため、伯爵令嬢マリッツァの領地の管理人をしている。善政を布くタシロは、領民から感謝され、慕われている。そこへ、タシロの友人で、ウィーンから来たシュテファン男爵に、負債の整理が済んだと聞かされているところへ、客を引き連れたマリッツァが突然現われ、婚約記念パーティをすると言う。
ここで初めてマリッツァと顔を合わせたタシロは、自分は以前、ヴィッテンブルク家に雇われていた、と実家の名前を口にする。するとマリッツァは、そのお嬢さんが来ていると言う。妹に実家の破産のことを知らせたくないタシロは、リーザに「管理人のふりをしている」と言うが、彼女はマリッツァに近づくための芝居と思い込む。タシロはリーザに、自分とは他人のふりをするようにと言い、リーザはそれを約束する。
パーティが始まるが、当の婚約者が現われない。というのも、婚約発表自体、財産目当てに求婚する男を遠ざけるための偽の発表なのである。婚約者の名前は、ヨハン・シュトラウス作曲のオペレッタの登場人物から取った名前なので、実在しないだろう、と思っていた矢先、そこに本当に同姓同名の人が現われる。彼は、新聞で自分の名前が載っていることに驚き、ハンガリー中にこの名前は間違いなく私しかいない、と意気揚々とやって来たのだ。困ったマリッツァは本当のことを言うが、同姓同名の彼、つまりジュパン男爵はまったく気にせず、一緒に私の故郷へ行こう、とプロポーズする。
タシロはそのパーティの様子を外から眺めている。自分もかつてはその中にいたのだ、と歌う。その歌声を聞きつけ、マリッツァが会場から出てきて「もう一度歌って」と言うが、タシロは「私はただのしがない管理人です」と言って拒否。未だかつてそんな仕打ちをされたことはない、とマリッツァは怒り、タシロはクビだと言い放つ。その後、皆はブダペストに繰り出して楽しもう、とマリッツァを誘う。その誘いを受け、出かけようとするマリッツァに占い女マーニャが駆け寄り、手相を見て「4週間以内に、あなたは高貴な家柄の紳士と恋に落ちるでしょう」と予言。マリッツァは皆とブダペストに行くのをやめ、4週間後に会いましょうと言ってその場に残る。皆は意気揚々とブダペストへ出かけて行く。そこへ荷造りをして別れの挨拶に来たタシロに、お互い意地を張りすぎた、と言って和解。マリッツァの滞在中、タシロは領地を案内し、2人は互いに惹かれていく。
4週間後、ジュパンを始め、マリッツァの友人一行がブダペストに集まる。レストランの個室にいたリーザをマリッツァと勘違いしたジュパンは、またも熱烈に求愛するが、リーザは浮かない顔。彼女は、ジュパン男爵に惹かれているのだが、彼はマリッツァのことを思っている。思いを打ち明け、2人は恋に落ちていく。
マリッツァがブダペストになかなか来ないので、それならばこっちから出向こう、と皆はマリッツァの館に押しかける。そこで参列者の1人がタシロとリーザが抱き合って再会を喜ぶ姿を目撃する。
リーザを愛してしまったジュパン男爵は、「貧しい娘と結婚しなければ、財産を譲らない」という祖父の遺言を口実に、マリッツァへの求婚を取り下げる。もともとその気のなかったマリッツァは喜んで同意する。タシロが友人に手紙を書きかけているところへマリッツァが現われ、ついにお互いが惹かれ合っていることを告白。2人は愛を確かめ合っていると、その書きかけの手紙をこっそり持っていかれてしまう。パーティの最中、参列者の1人がタシロは実はリーザに夢中で、マリッツァには金目当てで近づいたのだと告げ口。さらに書きかけの手紙を見せられたマリッツァは、参列している人々の目の前で、タシロに札束を山のように渡し、「これで目的が果たせたでしょう?もう2度と私への愛の言葉を口にしないで」と約束させる。承知したタシロは、その金を全て音楽家に渡し、自分のために演奏するように言う。そこへリーザが現われ、タシロの名前を口にする。それを聞いた友人の1人が、「タシロって、彼女のお兄さんの名前よ」と気づき、マリッツァに言う。マリッツァは彼らが兄妹だったと知り、自分が誤解していたこと、彼の愛が本物だったことに気づく。
翌日、タシロの叔母が訊ねてくる。マリッツァに辞表を渡し、彼女から就業証明書をもらっていると、叔母が騒がしく入ってくる。叔母は、管理人などして家名に傷をつけるつもりかと言う。タシロは、マリッツァを愛していたから働いたのだと言い、マリッツァもタシロを愛していると言う。しかし未だわだかまりのある2人。それぞれが、それぞれに渡した書類に目を通してないことを責める。お互いに辞表、就業証明書を開いてみると、そこには同じように「Ich liebe dich(私はあなたを愛しています)」と書いてあった。叔母は、「私が死んだら財産はあなたのものでしょ」と言い、何も気にすることはないと2人の仲を取り持つ。
一方、実家の破産を知ったリーザは、ジュパンに別れを言いに来る。リーザが貧しい娘だと知ったジュパンは、喜んで彼女に求婚する。もちろん彼女も喜んで承諾。こうして2組の幸せなカップルが生まれ、幕となる。