エレクトラ


Elektra

原作:ソフォクレスの『エレクトラ』
台本:フーゴー・フォン・ホフマンスタール(独語)
初演:1909年1月25日 ドレスデン宮廷歌劇場
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 父を母とその情夫に殺害され、復讐の機会を狙うその娘。設定からして常軌を逸している。この話から、娘が母を憎み、父を愛する感情のことが「エレクトラ・コンプレックス」と名付けられた(これの逆が「エディプス・コンプレックス」)。華やかな舞台、とは言えないが、エレクトラが繰り広げる狂気の復讐の執念に戦慄を覚えるとともに、人を憎むことでしか自分の存在を確立できない彼女に悲しみも覚えるオペラだ。だがそれ以上に悲惨なのは、悪い君主のいなくなった場所から1人締め出されてしまう妹・クリソテミスなのではないかとも思う今日この頃(エレクトラは既に死んでいるので)。
 エレクトラの感情を余す所なく伝えるシュトラウスの音楽も秀逸。情景はもちろん、感情の細かな動きでさえもオーケストラが表現してしまう。


登 場 人 物

エレクトラ  ドラマティック・ソプラノ
 ユダヤの王女。クリテムネストラの娘だが、父を殺したクリテムネストラ(書くのめんどくさい…)とその情夫エギストを忌み嫌い、復讐の機会を狙っている。屋敷内では、召し使いたちの言葉を借りて表現すれば、「野良猫のように」暮らし、「誰も寄せつけない」という。父であるアガメムノンに異常なほどの感情を持っている。かなりの存在感が必要。しかも、最初から最後までほとんど歌いっぱなし、出ずっぱり。上演の成功の鍵を握っているとも言える。強靭な声が求められる。

クリソミテス  メゾ・ソプラノ
 エレクトラの妹。復讐などは望まず、平穏無事で平凡な暮らしを望んでいる。エレクトラとは正反対の女性。穏やかな性格で、普通の女性としての幸せ(結婚して、子どもを産んで)を夢見る。

クリテムネストラ  メゾ・ソプラノ
 女主人。情夫エギストと共に夫であるアガメムノンを殺害。息子であるオレストをも、自分に害を加えるかも知れないので遠くへ追い出してしまう。自分が利益を得るためならばなんでもやる、典型的悪役。そういう意味では「サロメ」のヘロディアスに通ずるものがある。貴婦人ではない。ここだけの話、クリソテミスとクリテムネストラが、どっちがどっちの名前だったか分からなくなってしまうことが。楽譜上でも、名前の略記は、もはやどっちがどっちかよく分かりません。私だけですか。

オレスト  バリトン
 エレクトラとクリソミテスの弟。父の復讐をするために戻って来る。しかも、戻って来る前に、オレストは気が狂い、自分の馬に蹴られて死んだというデマを流すという、周到さも持ち合わせる。が、冷徹な面も持っているようだ。真面目な人物が適役。少なくとも3枚目ではない。

エギスト  テノール
 クリテムネストラの情夫(要するに不倫相手)。名前はたくさん出て来るが、登場するのは最後の方だけ。しかも殺されるためだけに出てくるようなもの。シュトラウスのテノール嫌いがここにも表われているとは…。臆病で、クリテムネストラのいわゆるヒモ的存在(どういう表現だ)。叫び声(しかも断末魔)が上手だとかなりの存在感がある。うまくいけばオイシイ役かも。甲高い声のテノールが役柄的にも合う。


あ ら す じ

雨の降る 薄暗い庭
召し使いたちが 仕事をしながら噂話をしている
どこにでもある風景――
だが 噂話の内容は 普通ではなかった

噂のネタは 王女エレクトラ
およそ人間離れした 生活
彼女は 父の非業の死を 夜毎に叫ぶ

――そろそろ その時間だ――

エレクトラが暗闇からのそり、と現れる
王女らしからぬ いでたち
召使たちは 我先にと 部屋へ逃げ帰る
そして エレクトラの慟哭が まるで儀式のように始まる
彼女は願う 父の無残な死への復讐を

ひとりだ…
悲しいことにただひとりだ!
父はいない
冷たい墓の中に追いやられてしまった
父 アガメムノンよ!
あなたの日が やって来ます
殺人者たちに 血の復讐を!
罪の制裁を!

復讐が果たされたなら 私は喜び躍ろう!

そこへ妹 クリソミテスがやって来る

彼女は何を願うのか?

彼女が願うのは 「女性としての幸せ」
愛する人の子を生み 育て
平凡な家庭生活こそが幸せ
しかも弟は追い出されていて いない
私は姉さんのように 強くはなれない…

復讐を望まない妹を 姉は拒絶する

すると にわかに家の中が 騒がしくなる
毎夜 悪夢にうなされるクリテムネストラのために
生贄の動物が殺され 祈祷が行なわれているのだ

クリテムネストラが 現われる
娘エレクトラが もしかしたら悪夢を払う術(すべ)を知っているかもしれない…

「教えておくれ、エレクトラ
どうすれば 悪夢から逃れられる?」

エレクトラは 惜しむように だが嬉しそうに答える

「男を知っている女で この家の者をいけにえに」

クリテムネストラは さらに問う

「誰が それを屠(ほふ)るんだい?」

「外から来る男だが 彼はこの家の者でもある」

次は逆に エレクトラが母に問う
「母さん、私たちの弟オレストを恐れているの?」

母は 強がって答える
「弱い男など 恐れてはいないよ
あの子は今 獣と人間の区別のつかずに
犬と共に生活をしているようよ」

その言葉に エレクトラは怒りを露にする

「捧げられるいけにえは あなたよ! そしてオレストがあなたを殺す!
そのとき 父の復讐が 成し遂げられるのよ!!」

そこへ 侍女がクリテムネストラに耳打ちする
突如 彼女は 勝ち誇ったように笑い出す

混乱する エレクトラ
殺す と言ったのになぜ笑っていられるのか
侍女は何を耳打ちしたのか?
彼女の疑惑は妹の叫び声によってすぐに晴れる


「オレストが 死んだ!」


突然の知らせに 愕然とするエレクトラ
――ならば 復讐は自分一人でやらねばなるまい――
彼女は隠してある斧を 必死に掘り起こす
かつて 彼女の父の頭を砕いた あの斧――

一心不乱に 土を掘るエレクトラに 一つの人影が近づく
それは なんと 死んだと伝えられたはずのオレストだった
彼は疑われぬよう 嘘の噂を流して
父の復讐を 果たしに来たのだ
真実を知り エレクトラは狂喜する

彼は家に入り ついに正義の鉄槌を下す
一人 また一人とくずおれてゆく
あたりは悲鳴と オレストに味方する者の歓喜の声で溢れる

エレクトラは 躍る
地を踏み鳴らし 足が血まみれになるのもかまわず
父への 喜びの踊りを

やがて彼女は 事切れる

妹クリソミテスがオレストを呼ぶが 彼は応えない

門は 2人を取り残したまま 固く閉ざされていた――

* END *