この作品について
台本:ミシェル・カレ、ウージェーヌ・コルモン
初演:1863年9月30日 パリ・リリック座
ビゼーの歌劇デビュー作。グランドオペラ全盛の当時にあって、斬新な音楽性を盛り込んだ実験的な作品で、初演時は、一般的な理解を得られず、18公演で打ち切られたが、唯一ベルリオーズだけが、この曲を評価した。ビゼーの没後、19世紀フランスの代表的オペラとして再評価され、主に改訂版が上演されていたが、近年、各国でオリジナルの上演が増えつつある。それにしてもビゼー、死んでから評価される作品がほとんどな気が…。
セイロン島(現在のスリランカ)を舞台に、異国情緒をふんだんに盛り込んだ物語で、第1幕のナディールのアリアは、ポピュラー音楽に編曲され、「真珠採りのタンゴ」の曲名で広く知られている。
このお話し、ストーリー的には「オペラ座の怪人」に通じるものがあると私は思うんですが、どうでしょうか。
登場人物
- レイラ/ソプラノ
巫女。かつてはセイロン島に住んでいたが、一度島を離れ、巫女となって戻って来る。 - ナディール/テノール
漁夫。昔、レイラのことを想っていた。 - ズルガ/バリトン
島の部族の長。彼も昔レイラのことを想っており、ナディールと争ったことがある。 - ヌラバッド/バス
バラモン教の高僧。レイラを連れて島にやって来る。
あらすじ
第一幕……未開時代のセイロン島
荒涼とした海岸で、漁夫と女たちが賑やかに酒盛りを繰り広げている。そこへズルガがやって来て、新たな族長を選ぶ時期が来た、と告げる。皆は、ズルガに族長の地位を与えると答えるので、ズルガは驚きながらもこれを受けることにする。
その場に、長く村を離れていた漁夫のナディールが戻って来る。ズルガが彼に帰郷の真意を尋ね、2人は美しい尼僧レイラを争って、互いが恋敵となった思い出を語り合う。ナディールは、その女性がいない今では、もう2人の友情を壊すものはないという。
その時、1漕のカヌーが近づいてくる。村の長老が、遠方の国から巫女を連れて戻ったのだ。ズルガは、ベールで顔を覆った巫女に、一生ベールを下ろし、決して顔を見せないこと、処女のまま、村の真珠採りたちの安全を祈り続けることを誓わせる。誓いを守れば、最高級の真珠を捧げるが、もし破ったときは、死を以って購うようにと申し伝える。
ところがナディールは、巫女の声を聞いて、彼女がレイラであることに気づく。高僧ヌラバッドによって岩の上に伴われたレイラは、そこで皆の無事を祈る歌を歌うよう命じられ、1人取り残される。そこにナディールが近づき、一瞬ベールを上げた彼女の顔を見る。2人は、運命の再会を果たしたことを知る。
第二幕……廃墟となったインドの寺院
勤めを終えたレイラは、ヌラバッドからそこで休むように告げられる。重ねて、誓いを守るようにと念を押すヌラバッドに、彼女は真珠の首飾りを見せ、子供の頃にある男をかくまい、剣をつきつけられても口を割らなかったこと、またその首飾りは、その時に礼としてもらったものだと話す。レイラは、今もその頃の意志の強さを失っていない、と答えるが、ヌラバッドは密かに見張りを置く。
ナディールは、夜の闇に隠れてレイラに会いに来る。彼を愛し続けていたレイラは、ついに誓いを破り、彼の腕に抱かれる。しかし、帰途についたナディールは見張りに捕らえられ、2人は処刑されることになる。ズルガは、親友のナディールを助けようと駆けつけ、処刑はせずに2人を追放する、と告げる。そして、巫女にベールを上げて顔を見せるよう命ずる。だが、巫女がレイラだと分かった途端、一度は親友を救おうとしたズルガだったが、激しい嫉妬に駆られ、再び2人に死刑を宣告する。
第三幕…………第1場:天幕の中/第2場:処刑場
ズルガは、一時の嫉妬から、2人を処刑せねばならないことを後悔している。そこにレイラが連れて来られ、ナディールだけは助けて欲しいと願う。ズルガは、自分もレイラを愛していたと告げるが、ナディールに対する彼女の深い思いに触れ、再び嫉妬する。死刑は覆らないと言い渡されたレイラは、形見として彼女の母親に届けてほしいと、真珠の首飾りを託す。これを見たズルガは、彼女こそ、かつて自分の命を救った少女だったと知る。
人々が酒に酔い、荒々しい踊りを繰り広げている。そこへレイラとナディールが引き立てられ、夜明けとともに火刑に処される、と伝えられる。しかしその時、ズルガが村に火が放たれたと叫ぶ。彼は2人を逃がすために、村に放火したのだ。人々が村へと走り去ると、ズルガは鎖を断ち切って、首飾りを示し、2人を逃がす。しかし、隠れて一部始終を見ていたヌラバッドがズルガを告発すると、彼は村人の手にかかって殺害される。彼方からは、逃げおおせた恋人たちの歌声が聞こえてくる。